今日は3月14日ホワイトデー。
だけどバレンタインに誰にもチョコを渡していない私には無関係、そう思っていたはずなのに

なんで私は黄瀬からクッキーをもらっているんだろう…。


「あの、黄瀬」
「なんスか?」
「返す人、間違ってない?」
「ひどいっス!いくらなんでも間違えるわけないじゃないっスか!」
「いや、だって…」

1ヶ月前の記憶を掘り返してみるけど、あの日は黄瀬と話した覚えさえない。
私は間違いなくバレンタインに黄瀬に何かをあげたりしていない。

「だって、私、バレンタインに何もあげてないよね?」
「もらってなかったらホワイトデーにクッキーあげちゃいけないんスか?」
「え?あの、話が見えないんですけど」
「オレ、バレンタインいっぱいチョコもらったんスよね」

ああ、そうですよね、いっぱいもらってましたね。
でも私が話しているのはそこじゃなくてね…。

「一人一人にお返しなんてとてもじゃないけどできないんスよ。
 そもそも名前書いてない人もたくさんいたし、書いてあっても知らない人だったり。
 そんな人にお返しとかする気になれないんスよね」
「いや、そこはお返ししようよ…」
「無理無理無理、だってこんないっぱい来たんスよ?」

黄瀬は大きく手を広げて「こんないっぱいっスよ!?」とアピールする。
そんな大げさな…とも思ったけど強豪バスケ部のエースでモデルもしているような黄瀬なんだからあながちウソじゃないのかもしれない。

「いや、話はそこじゃなくて」
「そうそう、オレいっぱいもらったんスけど、お返ししたいのはだけなんスよね。
 ああ、もらってないからお返しっていうのも変なんスけど」
「…それはさ、そういう意味なの?」
「そういう意味っスよ」

黄瀬はいつものへらっとした顔で笑う。

「別にバレンタインもらってないからってホワイトデーにお返ししちゃいけない決まりなんてないっスよね?」
「そりゃ、ないけど…」
「つーことで、これ、オレの気持ちっス。とりあえず受け取るだけでもいいっスから」

「受け取るだけでいい」その言葉で、とりあえず受け取ることは承諾した。
ただ、私は黄瀬のことは嫌いじゃないけど好きじゃなくて、正直こう言われて戸惑うだけだ。

「あの、黄瀬、私さ、」
「ストップ」

悪いけど、と言おうとしたら黄瀬が遮るように私の顔の前に手を出した。

「オレ、女の子にフラれたことないんスよね」
「…へー」
「だから、春休みまで返事待って欲しいんスけど」
「…春休みって、あと1週間?」

黄瀬はうなずくと、さっきまでのへらっとした表情はどこへやら、真剣な表情になって言った。

「そう。それまでに落としてみせるから」

黄瀬の真剣な眼差しに、一瞬ドキッとして
1週間後を待たずに落とされてしまうんじゃないかと思った。















11.03.14


普段へらへらしてる黄瀬の一瞬見せる真剣な表情が死ぬほど好きです




配布元→capriccio