あの頃、私はいつだってユキの後ろについて行った。あいつがどこに行こうと、何をしようと、後ろをついていってばかり。
並んで歩こうなんて考えたこともなかった。ユキが喜ぶからではなくて、ただ私が付いていきたかっただけ。
ユキが危ないところに行くときだって、止めるのも聞かずについていって、怪我をしたことがあったっけ。
そのときユキは「バカじゃねーの」と言って、私を抱えて自分の家まで行って、雑な手当てをしてくれた。

そんなふうに、いつもユキの後ろでユキの真似をしていた。自分を持たず、ただユキについていく毎日。
ある日、ユキがこう言った。

「お前、俺がいなくなったらどうすんだよ」

私にはユキの言ってることが理解できなかった。ユキが私の前からいなくなるわけないじゃない、って、そう思ってた。



今になって、ユキのあの言葉の意味がやっと分かった気がする。
確かにユキが私の前からいなくなることはなかった。何があってもひたすらついていったから。
だけどいつしか、ユキが私から離れていくのを感じた。いつも側にいるのに、どんどん距離が広がっていく。
物理的には近いのに、精神的に離れてしまうってこういうことをいうんだな、と初めて知った。

「ユキ、私、寂しいよ」

そんな声はユキには届かなかった。ユキはもう一人で歩き出してしまっている。私は一人、置いてけぼり。
ユキが私のことを置いていったんじゃなくて、私が前に進めなかっただけ。

ユキの、あの時の言葉の意味が今ならわかる。
ちゃんと一人で立てるようになれってこと。そう言いたかったんだよね?


ねえ、私もちゃんとユキがいなくなっても、自分でなんでもできるようになるから、お願いだからこっちを見てよ。
そう言ったら、ユキは私に冷たく言い放った。

に、こっち側に来る勇気があんのかよ」

どういう意味、と聞き返しても何も答えてくれない。
こっち側ってどういう意味?私に危ない目に遭って欲しくないってこと?
何で今さらそういうこと言うのかな。
私が何があってもユキについていくこと、あのとき雑な手当てをしたユキならわかるでしょ?


ユキがあのとき自分がいなくなったら、と話したのは私が一人で何も出来ないから言ったのか、それともこれ以上自分についてくるなって、そう言いたかったのか、ユキの真意は私にはわからない。

でも、私はずっとユキに何があってもついていくよ。自分でちゃんとできるようになるよ。

ねえ、だから、お願いだからこっちを見て。私はずっと、ユキの後ろ姿しか知らない。





(そうやって、ユキに願っていること自体が、ユキの後ろ姿しか見えない原因だと、私が気付くことはない)

















08.04.07





ユキの本心はどっちなのかはどうぞご自由に…

この話で何が言いたいのか自分でもイマイチわからない




タイトル配布元→capriccio