午後7時を回ったにも関わらず私はまだ学校にいた
別に部活があったわけでも委員会があったわけではない
ただ単に、HRの時間に寝ていたら、こんな時間になってまっただけ
4時間も寝ていたなんてバレたら恥ずかしい、私は早足で校門へ向かった
「…誰もいないよね…」
こそこそと下駄箱で靴を履き替え、校舎から出た
何でこの学校はこんなに昇降口から校門まで遠いんだろう
きょろきょろ周りを見渡しながら校門まで走る
誰にも見つかりませんよーに!と思ったのも束の間
「あれ、やん」
校舎を出て5メートル、というところで後ろから聞き覚えのある声が
クラスメイトの、白石だ
つまり、そう、クラスメイトということは、私がHRに寝ていたことを知っているわけで
「何や、今まで寝てたんか」
「うわぁっ!言わないで!」
「え、ホンマなん?」
「たまたま!いつもはこんな寝ないよ!授業だって寝ないのに!」
「確かに珍しいなぁ、が居眠りなんて」
「あー…誰にも気付かれないように帰ろうと思ってたのに…」
「残念やったなぁ」
白石は私の頭をぽんぽんと叩きながら笑う
でも白石でよかったのかもしれない、これで全然仲のよくない人だったら気まずいし
白石とだったら普通にネタにできるし、ああでもやっぱりやだな…
仕方ないので私は白石と並んで校門まで歩いた
途中に、プールがあるのが見えて、そういえばもうそんな季節なんだなぁと思った
「そういえば、明日プール開きだね」
「ああ、そうやなぁ」
「ね、ちょっとプール覗かない?」
「どうせ明日見るやん」
「いいじゃん、ちょっとみんなを先取り!」
「何言うとんねんお前」
そう言うと私は白石をプールのほうに無理矢理引っ張った
白石は面倒だという顔をしてるけど気にしない
「わープール見るの久しぶりー」
プールのドアを開けて、中に入る
この間まで汚い緑色だったプールの水は、綺麗に透明になっていた
「明日入るんやなぁ」
「白石はプール好き?」
「別に、普通やけど」
聞きながら、私はプールの中に手を入れてみた
冷たい、とは言えない。生温かさが手を襲う
「冷たいん?」
白石が隣に来て私のようにプールに手を入れた
ふと、悪い考えが私の頭の中をよぎった
「えーい」
「うわっ」
どーん、と白石を力いっぱい押して、プールの中に突き落とした
「おま、何すんねん!」
「あははっ私が4時間寝てたの知った罰です〜」
「いや意味わからへんし!」
びしょ濡れになった白石がプールの淵に手を掛けて上がろうとする
髪の毛からぽたぽた雫が落ちていて、水も滴るいい男ってこういうことかぁと思った
「おらっ」
「ぎゃあっ!?」
そんなことを考えていたら、プールの淵に掛かっていたはずの白石の手はいつの間にか私の手を掴んでいて
気付いたときにはもう遅く、白石に手を引っ張られプールに勢いよく落ちてしまった
「何すんのー!」
「そっちが先にやったんやろ」
「明日も制服着るのに!」
「それもお互いさま」
そう言って、白石は今度こそ本当にプールから上がった
続いて私もプールから上がって、その場に寝転がった
7時を過ぎても空はまだまだ明るい。夏なんだなぁと思った
「どーやって帰るのこれ」
「知らん」
「あーなんかさ」
「ん?」
「楽しいね」
白石はちょっと驚いた顔をして、そうやな、と笑った
プールと、夏と、友だちと 青春ってこういうことかな