「…最悪」

毎年恒例、四天宝寺の近所の神社のお祭り。
友人たちと一緒に行くのも毎年恒例だ。

今日もいつものように楽しんでいたんだけど…。

「…何度見ても同じだよね…」

周りを見渡しても知らない人ばかり。
携帯は充電切れ。

そう、中3にもなって「迷子」というやつになってしまったのだ。
友達と連絡を取ろうにも携帯が充電切れじゃどうしようもない。
しかもこの神社は結構広く、偶然会うのは難しい。

せっかく張り切って浴衣まで着たのに…。

「はあ…」

思わず大きくため息をつく。
みんなとはぐれたのもショックだし、
友達もみんな私のことを探してお祭りどころじゃなくなってるだろう。
そう思うと申し訳なくて泣けてくる。

「…とりあえず、座ろう…」

闇雲に歩くのもよくないだろう。
小さい賽銭箱の前に座った。
ここは正面とは違ってほとんど人がいない。
その代わり、お祭りのたくさんの人たちがよく見える。
友達を探すにはここが一番だ。

ふう、と腰を落ち着ける。
少し離れただけでお祭りの喧噪がとても遠く感じる。
どこからともなく蝉の鳴き声が聞こえてくる。
お祭りの中にいたときは気付かなかった。

「…あれ?」

人混みの中から、見慣れた人が抜け出してきた。

「白石?」
「やっぱりや」

目の前にいるのはクラスメイトの白石だ。

「どうしたの?」
「それはこっちのセリフやで。なんで浴衣まで着とるのに一人でこんなところに座ってねん」
「ああ、友達とはぐれちゃって。おまけに携帯充電切れ」

そう言って携帯を軽く振る。
白石は納得したように笑った。

「なんや、マンガみたいな話やな」
「本当だよ。まさかこの年で迷子になるなんて…」
「ははっ」
「あ、そうだ。白石もクラスみんなの番号知ってるよね?」
「ああ、そらな。はい」

白石はみなまで言わずとも察してくれたようで、携帯を私に差し出す。
ありがと、と言って私は白石の携帯から友達に電話をかけた。

『もしもし』
「あ、もしもし?私、だけど」
『え?え??なんで白石の携帯?!』
「偶然会って貸してもらったの。私携帯充電切れちゃって。今東門のほうの賽銭箱の前にいるから」
「なんや、そういうこと。ほな今からみんなでそっち行くわー」

友達はそう言って電話を切った。

「こっち来てくれるん?」
「うん、携帯ありがと」
「どういたしまして」
「白石は誰と来たの?」
「部活のみんな。そしたらが一人で座ってるの見えて、どうしたんやと思って抜けてきたんや」
「そっか、ごめんね」
「いや、それは別にええねん。眼福やしなあ」
「眼福?」
「浴衣、似合っとるやん」

白石は優しく笑ってそう言った。

「あ、ありがと」
「でもホンマ焦ったんやで。祭り中に浴衣姿の女の子が一人でボーっと座っとったら、何事かと思うわ」
「そんな大げさな」
「ま、でもが友達とはぐれたおかげで浴衣姿見られたしちょっと得した気分や」
「そんなに気に入ってくれた?」

張り切って着たわけだし、確かに嬉しいけど、そこまで言われるとちょっとむずがゆい。

「そら、好きな子の浴衣姿やしなあ」
「あ、そっか。……って、えええ!?」
「なんや、今さら気づいたん?」

白石は顔色一つ変えずそう言ってける。
一方私は思わずベンチから落ちそうになる。

「おお、危ないで」
「あ、ありがと…って、そうじゃなくて」
「冗談やないで。今日かてホンマはと行きたかったんやで」

自分の顔がどんどん赤くなるのを感じる。
今日白石と会えたというだけでラッキーだというのに、まさかこんな展開になるとは。

「えっと」

白石は優しげな表情で私の言葉を待ってくれる。

「私も、今日、白石と来られたら、って思ってたよ」

私の言葉を聞いた白石は、にこっと笑って私の手を取った。

「決まりやな」
「え?」
「お祭り、一緒に回ろうや」

そんな会話をしてるうちに、どこからともなく友達の私を呼ぶ声が聞こえてきた。

ー!やっと見つけたー!」

ぶんぶんと手を振る友人たちに、白石は爽やかに言ってのけた。

「悪いなあ、もうは俺が売約済みにしてもうてん」

そう言って白石は私の手を引いてお祭りの人混みへ走り出す。
遠くから友人たちの黄色い声が聞こえてきたけど、それどころじゃない。

とりあえず、どこの屋台に入ろうか。















蝉の声降る
12.07.12

賽銭箱とかがあるところは拝殿って言います
でも拝殿って普通の人はぱっと出てこないよね…ということで賽銭箱扱い

お祭り楽しいですよね 大好きです





配布元→capriccio