お腹が重い。人ひとりが私のお腹に入っているのだから当然といえば当然だ。
お腹が重いだけならまだいいのだけれど、妊娠中の今、とにかく眠い。
つわりはもうなくなったのだけれど、眠気はつわりがおさまってもひくことがない。
仕事は産休に入ったので問題ないけれど、家事には支障を来しまくりだ。

「ただいまー……?」
「!」

玄関から聞こえてきた健介の声で、ソファから飛び起きた。
時計を見れば時刻は19時。確かに健介が帰ってくる時間だ。

「あ、、寝てたのか」
「う、うん……ごめん」
「なんで謝るんだ?」

健介はスーパーの袋をキッチンに置く。
おそらくそこには食材が入っているのだろう。

「た、たいへん無益な一日を過ごしていたので……」
「寝てたのか?」
「ソノトオリデス……」

朝食を作って健介を見送って、眠くなってベッドで一眠りした。
お腹が空いて目が覚めたので、少し遅めの昼食を作った。
朝健介が干してくれた洗濯物を取り込んでソファに座りながら畳んでいたら、いつの間にか眠っていた。
これが、今日私がしたこと。なんと無益な一日だろう。
畳んでいた洗濯物も途中だし、したこととご飯を食べたことぐらいだ。そう、食べて寝ていただけ。
いくらなんでも生産性がなさすぎる。

「しょうがねえだろ、眠いんだから」
「で、でも……さすがになにもしなさすぎかなあって……」
「そんなことねえだろ。お腹の中で赤ん坊育ててたんだから」

さらりと健介はそう言い切る。
当然のことのように、あっさりと。

「オレのオフクロも弟お腹にいるときめちゃくちゃ眠かったらしくてさ」

健介はスーツの上着を脱いで、シャツの腕を捲る。

「すげー寝てたんだよ。いっつもオレや親父にごめんねって謝っててさ。で、そのとき親父に言われたんだよ。お母さんはお腹の中で人ひとり育ててるんだから、普段の二倍寝なくちゃいけないって。だからいいって。お前が今めちゃくちゃなの大変なのわかってるから」

健介に頭を撫でられて、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
どうしようもなく健介が好きだという気持ちでいっぱいになって、思わず健介に抱きついた。

「どうしたんだよ」
「……なんとなく」

もっと強く抱きしめると、健介は優しく抱きしめ返してくれる。

「健介が優しいのはお父さん譲りなんだね」
「おう。結婚してよかっただろ」
「うん」

茶化したような健介の言葉に真面目に答えるぐらいに、私は健介と結婚してよかったと思ってる。
結婚して、よかった。きっと、生まれてくる赤ちゃんも、健介に似た優しい子になるのだろう。
そんな未来を、待っている。







(ああ、だから生きていける)
16.12.25

卯月美華さんリクエストの妊娠中の奥さんをサポートしてくれる福井先輩でした!


配布元→capriccio


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