8月2日、今日は大我の誕生日だ。
しかも今年はせっかくの休日。
盛大にお祝いしたいところなんだけど。

「きもちわるい…」

リビングのソファに横になってそうつぶやく。
とにかくこの間から気持ち悪くて仕方ない。
原因はただ一つ、悪阻である。

この間、大我と私の間に赤ちゃんができたとわかったときはそれはもううれしかったの抱けれど、発覚直後から悪阻が始まって気持ち悪くて仕方ない。

「おい、大丈夫か?」

カウンターキッチンから大我が私をのぞき込んでくる。
手を挙げて彼に答えた。

「うどん食えるか?」
「たぶん…」
「ほら」

そう言って大我はお盆にうどんを乗せて持ってきてくれる。
いい匂いだ。

「冷たい方が食べやすいと思ったけど腹冷やしてもよくないよな?」
「うん…クーラー効いてるし」

大我の作ってくれたうどんは温かいうどんだ。
確かに冷たいものの方が食は進むけど、ここのところずっと冷たいものだったから暖かいもののほうがいいだろう。

「いただきます」
「おう」

ちゅるりとうどんを一口食べる。
弱った体に染み渡っていく。

「…ごめんね」
「?」
「今日大我の誕生日なのに、なんにもできなくて」

こうやっておいしいご飯を食べていると、とても申し訳なくなってくる。
今日は大我の誕生日だというのに、私から大我になにもきない。
それどころか一日私の面倒を見させている。

「いいって別に。体調のことなんだから仕方ねえだろ」
「でも」
「腹ん中に子供いんだろ?今までと勝手違って当然だろ」

大我は私に気を使う風でなく、当然のことのようにそう言ってくれる。
大我はこういう人なのだ。
優しい人。
そんな大我の誕生日をお祝いできないのが悔しい。

「ごめんね…」
「!?おい泣くなよ!」

目の端から涙がこぼれる。
大我に気を使わせたくないのに、これじゃ余計だ。

「べ、別にいいってマジで!誕生日ったってもうこの年だし、ほんと別に」
「うん…」
「だから…えーっと…」

大我はわたわたと手を宙に浮かせて慌てている。
これじゃだめだ。そう思ってぎゅっと目を瞑って気合で涙を引っ込める。

「本当、お前と子供が元気でいてくれたらそれでいいから、だからえっと…そうだ飯!飯食うか!?あ、いや今食ってんのか!」
「……」
「だから、その…えっと…」

慌てる大我を見ていたら、思わず笑みが零れた。
大我は私が泣き出すと、昔からいつもこうだった。
結婚することになって泣いたときも、うれし泣きだというのに大我は慌ててしまっていた。

「ごめん大我、もう大丈夫だから」
「お、おう。ほんとか?」
「うん」

そう返事をすると、大我は安心したような笑顔を見せてくれた。
本当に優しい人だ。

「誕生日は、悪阻おさまったら祝うからね」
「別にいいって」
「私がやりたいの」
「…そっか。じゃあ楽しみにしてる」

大我はくしゃりと私の頭を撫でた。
優しい感触だ。

悪阻はきっともう少しで終わるだろう。
そうしたら、赤ちゃんが生まれる前に大我の誕生日を盛大に祝おう。

きっと生まれたら、また忙しくなるだろうから。







君は本当に空みたいだ
15.08.02

ハッピーバースデー!





配布元→capriccio



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