「んーっ、いい天気!」 今日はたまたま早く目が覚めて、家に居てもすることがないから早めに学校へと向かった。 誰もいない教室は新鮮でなんとなく楽しい気分になる。 窓から外を眺めて大きく伸びをした。 「あれ、やん」 名前を呼ばれて後ろを向くと、そこには見慣れたクラスメイトの姿があった。 「財前、おはよー」 「ああ、なんや珍しいな。がこない早う来るなんて」 「たまたま早く起きちゃってさ。財前は朝練?終わるにしては早くない?」 「いや、俺は…」 財前の視線の先には教室の後ろにある大きな花瓶。 そういえば、花瓶に水をやるのは週番だから、今週は財前の番だったっけ。 週番は2人いるけど、うちのクラスは大抵朝の雑用をやるのが一人、授業の後の雑用が一人で自然と役割分担されている。 「へえ、財前って朝苦手そうなイメージだったけど、朝番やるんだ」 「朝は苦手やけど、こっちやらんと部活遅れてまうし」 財前が朝番をやるのは意外だったけど、部活にそんな一生懸命やってるのはもっと意外だった。 財前ってなんだかなんでもさらっとこなしてしまって、何か一つのことに一生懸命なイメージがなかったから。 まあでも、強豪のテニス部にいるくらいなんだから、確かに真剣なんだろう。 「明日から一週間早起きとか考えただけで憂鬱やわ…」 「あははっ、でも部活のためでしょ?」 「まあ、そうなんやけど…」 照れくさそうに財前は頭を掻く。 財前とはあまり親しくなかったけど、やっぱりこうやって一つのことに一生懸命な人ってかっこいいなあって思う。 「部活のために早起きとか、偉いよね。私はできないや」 「そうなん?」 「うん」 「まあ、俺も早起きはつらいんやけど」 財前は花瓶を持ち上げて、世間話をするような口調で言った。 「が明日も早う来てくれたら、早起きする気も起きるんやけど」 あまりにも普通に言うから、一瞬意味がわからなくてぼーっとしてしまった。 「…え?あの、それ、どういう意味?」 「そのまんまの意味」 「………」 「まあ、別に明日来るも来ないもの好きにしたらええんやけど」 「……一日考えさせてください」 「考えるっていうと、結構期待してまうんやけど」 考えさせて、とは言ったけど、明日もこの時間に来ている自分が簡単に想像できてしまう。 とりあえず今は、他の人が来るまでのこのもどかしい時間をどうしようか考えよう。 君が僕に落ちるまで (多分一日もかからない) 11.03.01 配布元→capriccio |