たとえばこのまま時が止まって、卒業式なんて永遠に始まらなければいい。 そんな夢のようなことをいくら願っても、それが現実になることは絶対にない。そのくらいは私でもわかってる。 だけど、願わずにはいられないのは、この三年間が、言葉では言い表せないほど、楽しいものだったから。 「、大泣きしそうやなあ」 「うるさいなあ。しょうがないじゃん、卒業式なんだから」 白石はぽんぽん、と私の頭を叩いた。それだけで、なんだか、胸が締め付けられるようで、少し涙が溢れてきた。 いやいや、本番はこれからなんだから、今のうちに泣いてどうする、自分。 四天宝寺の卒業式なんて、そりゃもうお笑いな感じなんだけど、そこが逆に泣けるらしい。 「ああ、こうやってみんなで笑うのも最後なんだって思っちゃうんだよね」と言うのが先輩談。 予行のときにすでに涙ぐんだりしていた私が、式中に泣くのを抑えるというのは無理な話だろう。 「ていうかさ、白石だって泣いたりしないの?」 「特に泣く予定はあらへんけど」 「だって、テニス部の人たちとかとお別れなんだよ?寂しくないの?」 「そら寂しいけど、泣いたりはせえへんやろ」 そう言った白石の横顔が、少し遠くを見ているようだった。 そんな白石の顔を見て、彼から部活の話を聞くとき、いつも遠くに感じていたのを思い出した。 私はテニス部のことはほとんど知らない。話では聞いていても、白石がテニス部で過ごしたとき、一緒にいたわけではないから、白石がテニス部の中でどんなことをして、何を感じていたかはわからない。 寂しくても、泣いたりはしない。 泣かないっていうのは、もちろん男女差もあるんだろうけど、いつも一緒にいなくても、繋がってる感覚があるのかもしれない。 友情とかとはまた違った、絆というか、そういう感じ。 「どないしたん?」 「別にー」 時計を見れば、もうあと10分もしないうちに卒業式が始まる時間になってしまっていた。 これから廊下に整列して、それから、式場に入場して。 この校舎と、仲間たちに別れを告げて。 「白石さあ」 「何や?」 「もし私があんたと違う高校に行ってたら、今日の卒業式泣いてた?」 白石は一瞬驚いた顔をして見せた後、すぐに私を小突いた。 「泣くも何も、そんなことさせへん」 「?」 「何が何でも、が俺と同じ高校に行くように仕向けるで」 「…バカじゃないの」 せめて私と同じ高校に行くとか言えばいいのに。まあ、そこらへんは白石らしいかな。 白石が仲間たちに感じているであろう「絆」を、私に対して感じることは、きっとないだろう。 少し、テニス部の連中に嫉妬を覚えてしまったじゃないか。 離れてても繋がってると思える仲間と、離れていると不安になってしまう恋人と、どちらが気持ちが強いとか大切とか、そんなふうに比べる気はない。でも、それでも、私が白石の恋人じゃなくて仲間というポジションだったら、どんな感じになるんだろうな、と考えてしまう。 こんなどうしようもないことを考えるなんて、白石のことバカなんて言えないな。 卒業式が終わる頃には、テニス部の連中にヤキモチを妬く自分がいなくなってればいい。 綺麗に晴れた空を見ながら、そんなことを思った。 ヒロインが、仲間に向けられる感情をうらやましいと思ってしまう感じの話がすごく好きです。 |