これ返すから。そう言っては小さい袋を差し出してきた。貸してたCDとか漫画はこの間まとめて返してもらったし、これ何だ? 「慎吾も返してよ、ほら、ゲーム貸したじゃん」 ゲームって何だっけ。ああ、あれだ、もう半年以上前に借りたやつだ。返せと言われる度に「また今度持ってくるから」と言ってきたけどもう「また今度」は言えない。とオレに「今度」はない。 「今持ってねーんだけど」 「なら、あげる」 「いや、さすがに持ってらんねえよ」 「…じゃあ、私のクラスの子にでも渡しといて。野球部の知り合いとかいるでしょ」 は一度もオレと目を合わせない。いや、こっち見られても困るんだけど。なんつーの、微妙な空気?それなりの期間一緒にいたのに、こんなにも居辛くなるものなのか。 「じゃ、ゲームの件はそういうことで」 「おう」 「…バイバイ」 「じゃあな」 オレはが小さくなるまでずっと見送っていた。途中での背中が揺れた気がして、泣いてんのかなと思ったけど気のせいかもしれないし、そうじゃないかもしれないし、ああもうわけわかんねえ。 何で別れたのかも本当のところよくわからない。自然消滅っていうのも少し違うし、どっちかが別れ話をしたってわけでもない。雰囲気って言うか、お互いがそれを察してた。オレはのこと今でも好きだし、もオレのことを好きだけど、何か違う。そういう好きじゃなくて、違うんだ。別れたくて別れたんじゃなくて、だけど別れないわけにもいかないような。 もうと遊ぶんだりするどころか、話したりもできないんだろう。一旦別れたら元には戻れない。こんな結果になるんだったらずっと友だちのままでいてもよかったんじゃないか。それ以前に、オレが何かしていたら、別れることにはならなかったかもしれない。そんな後悔ばかりが頭を巡る。もう何をしても何を考えても無駄だとわかってるのに。 が渡してきた袋の中には、小さな紙切れが入ってた。当然オレが貸したものではない。そこには、赤いペンで”こんないい女他にいないんだから!バーカ”と書かれていた。そういや赤いペンで手紙書くって、絶交って意味だと聞いたことがある。がそういう意味で、赤いペンで書いたのか、それともただ単に赤いペンしか持ってなかったのか、知る術はもうない。 こんないい女他にいない、なんて、そんなのオレが一番知っている。 |