「死ぬときってどんな気持ちなのかなぁ」

ベッドに寝転がりながら、すぐ隣にいるユキにそう聞いてみた。ユキは「はぁ?」といった顔でこちらを見てる。私だって普段ならこんな変な質問しないけど、ちょうど読んでいた漫画に走馬灯のシーンがあるんだもん。私は死んだことなんてもちろんないし、死にかけたことすらない。三途の川が見えたりとか、そういうのあるのかな。

「死んだことねーからわかんねーよ」

ユキはそう言って見ていた雑誌に視線を戻す。視線を戻してはいるけどその雑誌は私が買った女性ファッション雑誌。結局見ているのは占いとかそういうところの欄だけで、ときどき「お、俺今月ラッキーだ」とか言って私の部屋にある物をラッキーアイテムだからと言って奪っていく。きっとユキのことだから占いなんて信じてないだろうしラッキーアイテムのことだってきっと次の日には忘れてる。それで「これ何だ?」とか言って私のものを勝手に捨てるんだ。占いの欄を見るのは暇つぶし。私の物を奪っていくのは嫌がらせ。本当なんてやつなんだろうこいつ。そんなことを考えてる間にユキはまた私の本棚からアロマブームだか何だかのときに買ったキャンドルを取った。柚子の香のやつ。すると今度はポケットからライターを出して火をつける。ユキの持ってる雑誌を見ると山羊座の欄に「いい香りに包まれると吉☆」と書いてあった。最後の星がなんとも憎らしい。まぁ、これは使う予定もなかったので、使ってもらってよかったのかもしれない。

「死んだら、どんなこと考えてるかわかるかもしんねーぞ」

「え?」と言いユキを見つめる。あ、私が振った話題じゃん。占いのこと考えてたらうっかり忘れちゃったよ。えーと、死んだときのことね。

「とりあえず、凍死で死ぬと気持ちいいらしいよ」

「それは嘘だな」

「何で?」

「凍死しかけたけど寒かっただけだし」

「だってユキ死んでないじゃん」

ていうかユキが凍死しかけたなんて初めて聞いたよ、そう言ったら言ってねーもんと返された。
でも、やっぱり死ななきゃ死ぬときの気持ちなんかわからないのかなぁ。生きてるうちに死ぬときの気持ちはわからなくて、でも死んだら脳なんて機能しないんだからわかったとかも理解できないよね。じゃあつまり結局死ぬときの気持ちなんてわからないのか。つまんないの。

「死んだ人に聞けたらなぁ」

「無理だろ」

「死ぬ直前に聞くとか」

「相手を殺してる最中とか、それ出来るかもな」

「じゃあ、ユキのこと殺そうか」

あはは、と、冗談で、本当に冗談で笑いながら言ったのに、ユキは寝転がっていた私の上に覆いかぶさって、右手で私の首をおさえる。

「殺される前に殺してやるよ」

そう言ったユキの目は本気だった。力を加えられてるわけではないけど、少し苦しい。きつすぎるアロマキャンドルの香りと合わさって、すごく嫌な気分だ。
ユキ、早くこの手をどけて。

「、ユキ、苦しい」

「力入れてねーよ」

「でも苦しい」

ユキはつまらなそうな顔をして手をどけた。まだ生きた心地がしない。体がふわふわ、浮いてる感じ。思わずユキに抱きついた。死ぬときの気持ちなんてわからないけど、私はまだ死にたくないんだなぁと、漠然と思った。死ぬのは、こわい。

だけどユキ、私は死ぬならユキに殺されるのがいいかもしれない。
部屋を漂う柚子の香りの中でそう思った。






あなたを殺める権利が欲しい
(だから私を殺す権利はあなたに)
07.08.26




タイトル配布元→capriccio