「なあなあ、クラスの女子で誰が可愛いよ?」
「可愛い奴かあ、オレ宮野が好みだな〜」
「あー、お前ああいうの好きなんだ」

教室から聞こえてくる男子数名の声。
どうやら好みの女子の話をしているようだ。
忘れ物を取りに来たんだけど、これはちょっと入りにくい。
でも別に私の話をしているわけじゃないし、入ってもいんだろうか…。

「オレ、顔だけなら結構好みなんだけどなあ、あいつ怖えんだよな」
「あー、それわかるわ」
「なー、今日も数学の課題出してないのかって聞かれてさあ、忘れてたって言ったらなんか睨まれた」
「だってあいつでかいバスケ部の連中にも怖気づかないじゃん。お前なんか屁にも感じてねーよ」

……躊躇わずに入っておけばよかった。
本格的に入れなくなってしまった。
忘れ物は課題が出てる英語のノートだから取りに行かないわけにはいかないけど、非常に入りにくい。

「………はあ」
「どうしたの?」

ドアの前で立ち止まっていると、後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。

「…辰也」
「入らないの?」
「いや、まあ…英語のノート忘れちゃったんだけど」

私が口ごもっていると、中からまたさっきの話が聞こえてくる。

ってさあ、クールすぎんだよ。本当、顔は悪くないのに」
「逆らったらぶん投げられそう!」
「ぶん投げられるって…まあそれわかるわあ」
「やっぱオレはもうちょっとかわいげあるタイプがいいなあ」
「オレは池上さんみたいな子がいいなあー」

辰也は納得したような顔をして教室のドアを開けた。
ドアの前にいるので、もちろん私の姿も中から見えただろう。

「あっ…」

中にいる男子数名、ちょっと気まずそうな顔をしてる。
そりゃ当たり前だろう。
「可愛げがない」と言っていた当人と、その恋人が一緒に入ってきたんだから。
いたたまれない、と思っている私たちを余所に辰也は普通に教室に入って行く。

も入れば?」
「あ、うん」

さっきまで話してたクラスメイト達はこそこそと教室を出て行った。
ちょっと申し訳ないな、と思いつつ英語のノートを鞄に入れた。

「大丈夫?」
「え?」
「いや、さっきの話」

辰也は心配そうに聞いてきた。

「ああ、別に。ちょっと入りにくかっただけで」
「あっさりしてるね」
「まあ、慣れてると言うか…」

可愛げがないとかそういうことは自分でも自覚してる。
さっき話に出てきた宮野さんや池上さんはいつも柔らかい雰囲気の可愛い「女の子」という感じで、
私はその対極にいるのはわかってる。
さすがに直接言われたことはないけど。

「別にいいよ、だって私あいつらのことどうでもいいし」

あ、こんなところが可愛げないんだろうか。
でも本当のことだ。
多分相手も同じようなものだろう。
彼らの私への思いなんてさっきの話以上でも以下でもないはず。

「やっぱりは可愛いと思うよ」
「…いきなり何を」
「どうでもいい人ならどう思われてもいいってことは、どうでもよくない人からは可愛いと思われたいってことだろ?」
「どうしてそうなるのよ!?」
「大丈夫、オレはが世界で一番可愛いと思ってるよ」
「なっ…」
「そうやって、オレの前だけ赤くなったりするところが特に、ね」


これだから…こいつは…!

辰也のストレートな言葉に思わず手で顔を隠す。
こればっかりはいつまでも慣れない。


「あんたって本当…」
「どうしたの?」
「…もういいです」

ため息を付くと辰也は優しく笑う。
さっきのクラスメイトにはどう思われてもいいけど辰也に可愛いと思われるのはやっぱり嬉しい。
私はそんなに女の子らしくないし可愛げもないとは思うけど、やっぱり私も女の子なんだなあ、なんて思ったり。





















砂糖菓子のお姫様
12.05.01


氷室はちょっとクールっぽい感じの女の子が合うと思います





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