3月14日、ホワイトデー。
私は38度の熱を出した。

「はい、ジュース」
「ありがと…わっ!?」
「気持ちいいだろ?」

お見舞いに来てくれた辰也がキンキンに冷えたジュースを私のおでこに当てる。
吃驚したけど、冷たくて気持ちいい。

「あー…気持ちいい…」
「季節の変わり目だから風邪引きやすいんだよ。気を付けないと」
「…はい」

辰也は私の前髪を優しく撫でる。

「…ごめんね」
「?どうして謝るの?」
「だって、ホワイトデーなのに…」
「そんなのどうでもいいよ。早く治して」

そう言うと辰也はおでこの上に濡らしたタオルを乗せてくれる。
火照った頭が少し冷たくなる。

「まあ、ちょっと期待してたのは本当だけど」
「…やっぱり」
「でも、がこんなときに、変なことするつもりはないよ」
「へ、変なことって」
「わかるだろ?」

そう言って辰也は私の唇をなぞる。
一ヶ月前、チョコを池に落とすというマンガみたいなギャグをしでかした私は、チョコの代わりにキスをした。
それの3倍返しと言ったら、その…。

「ご、ごめんなさい…」
「いいんだよ、別に。いつでもね」
「…いつでも?」
「どうしたの?」
「…遅くなればなるほど利子が付いたりは…」
、オレのことなんだと思ってる?」

辰也は苦笑しながらそう言う。
そ、そういうやつだと思ってるよ…。

「まあ否定はしないけど」
「…でしょ?」
「でも、がこんなつらいときに、そんなこと考えないよ」

辰也は眉を下げて笑った。
ちょっと寂しそうな笑い方。

「早く元気になってね」

優しい声でそう囁かれる。
そうだ。辰也は、いつもそう。
辰也はいつも私のことを一番に考えてくれて、一ヶ月前も、今もそう。
私が失敗して謝っても、私を傷つけないように、大切に大切に扱ってくれている。

「…辰也」
「ん?」

風邪をうつしてしまうかもしれない。
でも、思ってしまった。もし、うつしたら、ごめんね。

「キスが、したい」

そう言うと、辰也は目を丸くする。
私がこんなこと言うなんて、滅多にないから驚いているんだろう。


「風邪、うつしちゃうかもしれないけど、でも、…っ」

私が全部言い終えるより前に、辰也は私にキスをする。
最初は啄むように何度も何度も、そして、段々深いキスに変わっていく。

「…んっ…」

辰也は私を気遣ってくれているのに、私は我儘だ。
風邪をうつしてしまうかもしれないのに、キスがしたいなんて我儘を言って。
辰也はそんな私の我儘を全部聞いてくれる。



息が上がった私を見て、辰也は少し笑った。

「…はい、これ以上はダメだ」
「…うん」
「もう、寝よう。治ったらまたキスをしよう」
「…うん」
「おやすみ」

辰也がそう言うから、私は目を閉じた。
早く寝よう。そして、早く治そう。
風邪を治したら、また、辰也とキスがしたい。










アルカディアの姫君
13.03.14

ホワイトデー関係ないような気がするけど、そんなことはないはず…。
「ホワイトデーに風邪を引いてしまった」という罪悪感を包み込んでくれるっていう要素が必要なのです


配布元→capriccio



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