金曜の昼休み、図書委員の私は図書室で当番をしている。 「すみません、貸出いいですか?」 「はいはい」 一年生の女子は小さな文庫本を持ってそう言った。 後ろに付いてるカードに判を押して彼女の名前を書いて…と。 気付くと彼女の後ろには二年生の男の子が並んでる。 今日は珍しく混んでいる。 「あの、別に貸出私じゃなくても、彼でもいいんですよ」 「え?」 そう後ろの男子に言うと、何?という顔をされる。 やっぱり…気づいていないのか。 「あの、ボクも図書委員なんで。貸出でいいんですか?」 「うわっ!?」 「図書室ではお静かに願います」 私の隣で黒子くんは静かにそう言った。 金曜の昼休みは、私と彼が当番だ。 まあ、黒子くんはほとんど気付かれないから私にばっかり仕事が回って来るんだけどね…。 「先輩、いつもすいません」 昼休みも終わりに近づき、図書室に私と黒子くんだけになったとき、彼が小さくつぶやいた。 「?なんのこと?」 「いつも先輩にばかり仕事させてしまっていますから」 「ああ、別に大丈夫だよ」 黒子くんのせいじゃないし、もともと忙しいのは嫌いじゃない。 「別に気にしないでね」 「そう言ってくれるとありがたいです」 そんな話をしていると、昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。 「今日はこれで終わりですね」 「うん。じゃあ、また」 そう言って黒子くんと別れる。 クラスどころか学年も違う私たちの接点はこの時間だけ。 だから、いつもこのチャイムが憎らしい。 ただ、今日は放課後にも一つだけ楽しみが。 * 「先輩、これどこに置けばいいですか?」 「それは、あっちの棚。B-5って書いてあるところ」 「、ここにある山になってる本どうすんだー?」 「それは廃棄処分のやつ。最後に出すからとりあえずそこに置いておいて」 あっちこっちから聞こえてくる私を呼ぶ声。 半年に一度の図書委員の大仕事。図書室の蔵書整理だ。 図書委員長である私は、みんなからいろんなことを聞かれる立場にある。 小学生のころからこういう委員長とか班長とか、とにかくそういうリーダー的な存在にされることが多かった。 頼りにされることは結構嬉しいし、自分に向いてるとも思う。 「さん、ちょっとこっちいい?」 「はいはーい」 「これ、どこに置くの?」 「これはね…あー、説明するの大変だから、私持ってくよ」 「そう?じゃあ、お願い」 「持ってくよ」と言ったはいいけど、結構重い。 よいしょ、と気合を入れて持ち上げる。 「先輩」 「あー今ちょっと手離せないからごめんね」 「いや、そうじゃなくて」 声の主を確認しないままそう答えると、ふっと腕が軽くなる。 ?なんで? 「…あ、く、黒子くん、ありがとう」 「いえ」 気付くと、目の前に黒子くんがいた。 重かった本を何冊か持ってくれているようだ。 「これ、どこに置くんですか?」 「こっち」 そう、今日の楽しみはこれ。 図書委員の仕事があれば、黒子くんに会える。 学年も部活も違う私たちの唯一の接点は委員会。 だから、図書委員の仕事が多いのはすごく嬉しい。 「ここですか?」 「うん」 図書準備室の端っこ。 そこに持ってきた本を置く。 「黒子くん、ありがとうね。重かったから助かったよ」 「どういたしまして。先輩も重いのに無理しちゃダメですよ」 「大丈夫だよ、私丈夫だし!」 そう言って笑ってみせる。結構私は力持ちだ。 「でも、先輩は女の子ですよ」 思わぬ言葉に心臓が跳ねる。 あまり女子扱いされないし、それに、相手が黒子くんということも。 「先輩、どうしたんですか?」 「あ…いや、えっと、あんまりそういうこと言われないからびっくりしちゃっただけで」 「そうなんですか?」 当たり前のことを言われただけなんだけど、ドキドキする。 「先輩は、女の子じゃないですか」 「いや、うん、そうなんだけど…」 好きな人から女の子扱いされると言うのは、嬉しい。 自分は割とサバサバしているほうだと思っていたけど、こんなふうに思ったりもするのか。 ちょっと恥ずかしいような…。 「何か重い物運ぶときとか遠慮しないで言ってください」 「うん、ありがとう。でも、本当大丈夫だよ」 そう言うと、黒子くんは少し寂しそうな顔をした。 「?どうしたの?」 「…ボクはそんなに頼りになりませんか?」 「え?」 黒子くんは私の目をまっすぐ見ながら話し出す。 「先輩は女の子で、ボクは一応男です」 「うん」 「だから、ボクはこういうとき頼って欲しいです。相手が先輩なら、なおさら」 「え…」 相手が私なら、の意味を自分の都合のいいように考えたり、いやいやまさか、と否定したり。 一瞬の間でぐるぐる考えていると、黒子くんが次の言葉を紡ぎ出す。 「だって、ボクは先輩が」 「あー、さん、こんなところにいた!」 後ろから聞こえてきた声に振り向くと、そこにいるのは隣のクラスの図書委員。 え、ええええ!?よりによってこのタイミングで!? 「廃棄処分になる本って10冊のはずでしょ?あと2冊足りないんだよね」 「あ、うん、わかった。今行くよ」 まさかここで黒子くんの言葉の続きを聞くわけにも行かず、彼女と一緒に準備室を出ようとすると、黒子くんに腕を掴まれる。 「く、黒子くん」 「先輩、蔵書整理終わったら、さっきの話の続きをさせてください。もう、ほとんどわかってると思いますけど」 「…うん」 そう答えると、黒子くんはさっき持ってきた本を本棚に並べ始める。 …早く終わらせよう。そして、私もちゃんと言わなくちゃ。 アクアマリン 12.11.04 空さんリクエストの黒子くんで姉御肌の年上ヒロインの話です 微ツンデレとの要望もあったんですがこれで大丈夫でしょうか… 年の差のあるヒロインはあまり書かないので新鮮ですね リクエストありがとうございました! アクアマリンの宝石言葉は勇敢だそうです 感想もらえるとやる気出ます! 配布元→capriccio |