夏休み、と言えど私は受験生。 部活は7月で引退したものの、毎日塾に夏期講習…とせっかくの夏があっという間に過ぎていく。 「はー…」 ため息を付きながら塾から塾からの帰り道を歩く。 同じ中学の後輩らしき子たちが私をすっと追い越して行った。 「なんか、いいなあ…」 たった一年前のことなのに、なんだか遠い昔のことのようだ。 いや、私も春くらいまではあんな感じだった。 夏になって、部活の引退する子が出てきたりする辺りから周りの空気も少しずつ変わっていって、 私も同じく引退した日から勉強漬けの毎日に引きずり込まれていった。 暗い考えばかりが頭を巡る。 このままではいけないと思い、頭を冷やそうと近くのコンビニへ入った。 コンビニに入るとアイスコーナーの前に見慣れた顔があった。 「白石!」 「…?おお、やん。なんや、久しぶりやなあ」 1か月ぶりに見るクラスメイトの顔に少し嬉しくなって、アイスコーナーに駆け寄った。 白石の肩にはテニスバックが見える。 テニス部はまだ全国大会もあるしまだ3年生もやってるんだ。 「白石は部活帰り?」 「おお。は?」 「塾帰り」 「お疲れさん」 「そっちこそ」 「これにしよ」と言って白石はアイスを一つ取る。 私も適当に選んで白石の後を付いて行った。 レジの順番を待ってお金を払って、コンビニから出た。 クーラーの効いたコンビニと外の熱気の差で一瞬眩暈がする。 「…こら、家に帰る前にアイス溶けるわな」 「うん…」 そう言って白石と私はコンビニ前のガードレールに腰かけてアイスの袋を開けた。 「白石ってさ、受験勉強してる?」 「突然やなあ。そら、受験生やからしとるで」 「ああ、やっぱりしてるんだ。あんまりそういう感じしないんだよね」 「いやー、これでもいっぱいいっぱいやで。勉強もやらなアカンし、でも部活も手抜けんし」 「白石もやっぱり大変なんだ?」 「まあ、そらなあ。でもあと半年の辛抱やろ」 「まあねー。でもなんかさあ、後輩とか見てると切なくなってくるんだよね…」 息抜きしててもなんだか何かに迫られてるような気がしてうまく休めなかったり、 一年前はこんなんじゃなかったのになあ…、なんて、そんな気分になったりする。 「そうなん?」 「白石はそういうことないの?」 「うーん、あんまないなあ」 「へえ…」 単純に考え方の違いかなあ、と思ったけど、なんだか白石がうらやましい。 私も春辺りまではこんなふうに思ったりしなかったけど。 「まあ、あと半年やし、お互い頑張ろうな」 「うん」 「ほな、頑張ってるにプレゼントや」 「え?」 そう言って白石はテニスバッグの中からコアラのストラップを取り出した。 「コアラは樹から落ちないんやで」 「わ、ありがとう。ってか、いいの?」 「こないだペットボトル買ったらおまけでついてきたもんやし、俺あんまストラップとかつけへんし。 コアラも使ってもらったほうが喜ぶやろ」 私は早速ケータイにストラップをつけてみた。 なんだか、つらくなったときとかに見ると幸せになれそうだ。 「ありがとうね」 「…あ、なんかの気持ちわかったかもしれん」 「え?」 「切なくなるっちゅーか、夏が終わってほしくないなあ」 そう言った白石の目は本当に寂しそうだった。 「なんや、立ち止まると寂しくなるな」 「ああ、それはなんかわかるかも」 西の空に夕陽が見える。 ああ、もうそんな時間なんだなあ。 「そろそろ帰ろうか」 「そうだね」 まだまだ暑いけれど、夏は確実に終わりに向かってる。 11.08.18 ゆっくり歩くとがむしゃらに走ってたときに気づかないことに気づいて、ちょっと切なくなりますよね テニプリっ子はみんながむしゃらに走ってるので少し前のことを懐かしんだりはしなそうですけど、 部活を引退した後、切なくなるのかなあ、なんて思います 配布元→capriccio |