俺が今この道を走ってる理由はたったひとつ、その理由のためにこの道を走っている。
生きる理由なんてひとつだけでいい。

「土方さんってひとつのことしか見てなさそうですね」

にそう言われて、俺の口から出た言葉はそれだった。
生きる意味なんて今までわざわざ考えたことなんてなかったが、ただ考えるまでもなかったってことだ。
考えなくたってわかる、俺が何をして生きていきたいか。

「その道の先には何があるんですか?」
「何もねえよ」
「何もないのに、道の先をどうやって生きていくんですか?」
「んなもん知るか」
「生きる理由は、いっぱいあったほうがいいですよ」

そのほうが理由がひとつなくなっても生きて行けます、はきらきらした笑顔でそう言った。
こいつには生きる理由はたくさんあるんだろう。俺からしてみれば理由がたくさんあるのは煩わしい。はっきり言って面倒だ。

「私には数え切れないぐらいありますよ。家族がいるから、友だちがいるから生きていくし、おいしいものもたくさん食べたい。可愛い服を着たりお洒落もしたいし、行ったことのないところに行ってみたい。そう思うと、まだまだ死ねないなって思うんです」
「いつ死ぬかわかんねえのに、そんなこと考えてたらいざ死ぬときに面倒だろ」

人間なんていつ死ぬかわからない。その上俺の場合職業柄より死ぬ確率はずっと高い。
なのにあれもやりたいこれもやりたい、なんて思っているのは面倒以外の何物でもないだろう。

「じゃあいっぱいじゃなくてもいいから、せめてふたつにしませんか?」
「あ?」
「ひとつ目は近藤さんを偉くすることで、ふたつ目は私と一緒に生きていくこと。どうですか?」

そう言ってが俺に口付けたとき、そんな道も悪くないかと思った。
面倒だと思った矢先にこんなことを思うなんて、随分と俺はに侵されてしまったようだ。

ああ、なんだ、俺もまだまだ死ねないな。













生きる理由なんかひとつあれば十分だ

09.07.21




タイトル配布元→capriccio