遊びに行こう、遊園地とか、そういうんじゃなくて、どこでもいいから遊びに行こう。
今度の日曜は、元希と遊びに行くはずだった。1ヶ月前からそう約束して、3週間前から来ていく服を選んだり。楽しみにしてたんだ。

「悪いけど、行けなくなっちまった」

そう言われたのは、昨日一緒に帰ってるときだった。急に練習試合入ったらしい。強いとことやっと試合が組めたから、ずらすわけにはいかねえんだ、と。そういうことじゃ仕方ないね。笑って言ったら、「オレお前が彼女でよかったよ!」と満面の笑みで言われた。

何が仕方ないね、なんだろう。そうやって約束を破られたのは何回目になるのか、もうわからない。元希の大切なものは野球。野球しかみえてないんだ、あいつは。野球より彼女の私を優先したことなんて一度もない。部活をサボれとは言わないけれど、ちょっと体の調子が悪ければから遊びに行けないと言われるし、私が風邪を引いたら、移ったら不味いからと言って近づこうともしなかった。最悪じゃないか、前者はともかく後者は本当に最悪だ。見舞いの一つでもするのが彼氏ってものじゃないの?移ったら不味いから、なんて、そんなの知らない。弱ってるときくらい優しくしてよ。風邪が治って、学校で会ったとき、そう言ってやりたかったけど言えずに終わった。言ったら別れることになるんじゃないか、嫌われるんじゃないか、そう考えると私は何も言えなくなる。元希の一番は野球だなんて付き合う前からわかってた。それでもいいと思って告白したのに。
きっと、私が「野球より私を大切にしてよ」なんて言おうものなら元希の中の私を好きという感情は音を立てて崩れ落ちることだろう。ドラマで見る、「私と仕事どっちが大切なの?」というセリフ。それを聞くたびこの質問をする女はなんてバカなんだろう、比べるものじゃないじゃないか、と思っていたけど、今ならドラマのヒロインたちの心情が手に取るようにわかる。
「野球が一番好きな元希が好きだから」思ってもないことを言ってみれば、また元希は喜ぶ。私の一番は元希なのに、元希の一番は私じゃない。

元希の一番になりたい。一番じゃなきゃいやだ。私を一番大切にして。野球なんか捨てて、私を一番好きになって。

そう言いたいのに言えないのは、嫌われたくないから。一番になれないならせめて、嫌われないように。
本当は、わかってる。元希が好きなのは私自身じゃない。”物分りのいい彼女”が好きなんだ。自分が、野球が一番大切なんだと言っても理解してくれる彼女。元希が好きなのは、元希自身が作った幻想だ。
それでも、元希が好きでいてくれるなら、私はいくらでも物分りのいいを演じ続ける。大丈夫だよ、気にしないで、野球が一番な元希が好きだから。そんな嘘を並べてでも私は元希の傍にいたい。

私は一生物分りのいい彼女でい続けるし、元希もきっとずっと幻想の私を好きでいる。
幸せかどうかなんて、私にだってわからない。














Alice in the wonder land
07.12.17




タイトル配布元→capriccio










Alice in the wonder land=不思議の国のアリス、というより空想的なという意味のほうで
ある意味今まで書いた中で一番暗いって言うか後味悪い感じに…