「謙也はさあ、好きな人おらんの?」

幼なじみのの家で夕飯をごちそうになっていたとき、不意にがそんなことを聞いてきた。

「はあ!?いきなりなんや」
「あのね、新聞部の友達がテニス部の特集したいって。それでこういうのは受けがええからあんた忍足くんに聞いてきてーって」
「ああ…そういう…」

一瞬期待したオレがアホやった。
ドがつく天然のもようやくこういうことに興味を持ってくれたんかと思ったのに…。

「で、おるの?おらんの?」
「あー…それはなあ…」
「詰まるってことはおるんやな!」

目の前にな!
そんな言葉を飲み込みつつ、の目を見つめてみた。
こんなふうに必死に「お前や!」というテレパシーを送り始めてからもう何年も経つけど、が気づく気配は全くない。

「謙也にも好きな子おるんやなあ…なんや、親みたいな気分や」
「いや、同い年やん」
「まあそうなんやけど」

親って、こっちは親やなくてなあ…。
生まれてからずっとの天然っぷりに付き合ってきたけどやっぱり落ち込むわ。

「ねえねえ、誰?私の知っとる人?」
「まあ、そうやな…よーく知っとる人やな」
「へえ、誰、誰?」
「いや、そこまでは言えるわけないやろ!」
「えー、私にも言えんの?」
「お前なあ、いくら幼馴染っちゅーてもそないなこと言えるか!」

そういうとは少し寂しそうに「そっかあー」と足をぶらつかせた。

「そういうはおらんの?好きなやつ」
「え?いないよー」

「友達はみんな好きな人いるんだけどねー」そう言っては笑う。
こんな天然なところに可愛いと思って好きになったんやけど、こっちが空回りまくっとるとさすがに切なくなってくる。
はあ…とため息を付こうとしたらは両手を拳にして力強く言った。

「私は好きな人できたら真っ先に謙也に教えるからね!」

その言葉に、ため息は一層大きくなって口から出てきた。
はあ…もうなあ…
机にうなだれるオレに向かってどうしたの?とは聞いてくるけど、さすがに答える気力がわかない。
ああ…そうなんや…はこういうやつなんや。
この野郎!と言いたくなるけどやっぱりかわいいと思ったりして
惚れた弱みっちゅーのはこういうことか…。
このまま一生振り回せれるんかなあと思って、だけどならいいかとも思ったりして
そんなふうに思ってる辺りオレはもう終わっとるなあと思った。













11.03.29
天然な女の子に振り回されまくってる謙也が好きです。


配布元→capriccio