白石の部屋で、借りてきた映画のDVDを鑑賞中。
とはいっても、もう本編は終わり、今はエンドロール。

「面白かったねー」
「せやな。映画館で見ればよかったなあ」
「でも映画館で見ると高いんだもん」

たかが1000円といえど、中学生には中々の金額だ。
ぽん、と出せるようなお金じゃない。

「まあ、DVDでも楽しいよ。開始時間とかも気にしなくていいし」
「でも、来週から公開のやつ、確かこれの監督と同じ監督でちょっと気になってるんや」
「へえ」

監督って誰だろう。そう思ってパッケージを裏返す。

「確か主演の女優さんも同じでなあ」
「ああ、この人」

パッケージの裏を見ると、綺麗な主演の女優さんが口紅を塗っている。
映画の最中で何度か出てきた、印象的なシーンだ。

「このシーンいいよね。かっこよかった!」

女優さんの真似をしてみる。口紅なんて持ってないからリップクリームだけど。
そんなふうにしていると、白石はじっとこちらを見てくる。

「どうしたの?」

何かあったのかと聞いてみると、返事の代わりにキスをされる。

「え、な、なに、いきなり」
「いや、誘っとんのかなあと」
「え?………あ」

そういえば、このシーンの後には恋人がキスをしていた。
はっとして、顔を赤くする。

「あ、いや、別に」
「なんや、がそないなことするの珍しい思たのに」

白石はちょっと残念そうな顔をする。

「まあええわ。もうコップ空やけど、おかわりいる?」
「ああ、うん。お願い」

「了解」と言って白石は部屋から出ていく。
誘ってる、かあ…。
そんなつもりじゃなかったけど、そうか…。


「ほい、ジュース」
「ありがとー」

白石からジュースを受け取って、一口含む。
おいしいなあ、と思いつつ白石をじっと見る。

気付いてほしいような、気付かないでほしいような。
ドキドキしながらリップクリームを塗った。

「なんや、誘ってるん?」

あ、気付いた。
白石はちょっと笑いながら聞いてきた。

「そ、そうだよ」

そう言うと白石は目を丸くする。
そりゃそうだ。こんなこと言ったのは初めてだから。

「いきなりどうしたん。いや、めっさ嬉しいけど」
「だって、そりゃ、口では言えないから」

ああ、なるほど、と言って白石はまた私にキスをする。

「キスしてほしい」なんて口では言えないけど、これなら。
いい方法、見つけた。





















ペパーミントキス
12.10.02







配布元→capriccio