「あ、」
「」
月曜の朝、家を出て駅に向かうとき、隣の家の三井寿に会った
「よう」
「おはよう」
小さい頃からずっと一緒で、幼馴染だったのだけど
中学入る頃には寿はバスケに夢中になって話す機会が減って、
高校に入ったら今度はグレちゃって話すどころか会うことさえほとんどなくなった
今はまたバスケを始めたみたいだけど
「……」
「……」
二人とも目的地は駅だから、並んで歩いているけど
丸2年も話していなかったものだから、何を話していいかわからない
「あのさ」
「あ?」
「この間の試合、勝ったんだってね」
「ああ」
やっぱり会話が続かない、寿も話しにくいと思ってるんだろう
どうしよう、何か喉渇いてきちゃったよ
「あ」
「何だ」
「飲み物買う」
自販機を見つけて、120円入れてコーヒーのボタンを押した
「お前コーヒー飲めたのか?」
「高校入って飲めるようになったの」
「へぇ」
喉を鳴らしてコーヒーを飲む
言いたかった言葉とか、全部飲み込んでしまいそうだ
「変わってくもんだなぁ」
寿が言った
こっちのセリフだよ、それは
寿は中学入ったらぐんぐん背は伸びるしバスケもうまくなって、遠い存在になってしまって、
高校入ったら今度は私とは違う世界に足を踏み入れちゃうし(戻ってきたけど)、
一人でどんどん変わってしまうのは寿のほうじゃないか
「次、試合いつなの?」
「今週の日曜」
「へぇ」
昔ならここで、応援に行くね、とか言えたのに今はへぇとしか言えない
それだけじゃない、言いたくても言えない言葉がたくさんあって
寿が湘北受けるっていうから私も受けたりしたんだよ、とか
この間の試合、見に行ったよ、すごかったね、とか
昔からずっと好きだった、とか、言えないことが日に日に増えてく
「それくれ」
「え?」
「それだよ、コーヒー」
寿は私が持っているコーヒー缶を指した
「え、やだよ、間接チューじゃん」
「今更だろうが」
「えー…」
寿は私からコーヒーを取って(というか奪って)、ぐいっと飲む
「ちょ、全部飲まないでよ」
「飲んでねーよ」
寿は缶を私に返す
回し飲みなんて、昔に戻ったみたい
「ね、次の試合、応援に行こうか」
「おう」
今、大丈夫かな、自然に言えたかな
こうやってちょっとずつ、言えるようになれたらいいな
07.01.24
昔みたいに一つずつ、言えなかった言葉を言えるように
タイトル配布元→capriccio