じりじり、じりじり、太陽の焼ける音と、校長先生のありがたーいお話が頭の中でこだまする。何が悲しくてこんな暑い中校庭で始業式をやるのだろう。友だちの学校は冷房付き体育館でやってるとか言ってたのに。熱中症で倒れる子とか絶対出るってこれ。こんなとき人より10倍くらい健康体な自分の体がとても憎らしくなる。いかにも体の弱そうな子は「先生、気持ち悪いんですけど」とか適当なこと言って校庭から抜け出せてしまうからだ。まあ、本当に気分が悪い子はしょうがないけど。

「雲一つない青空に、みなさんとまたこうして会えてとても嬉しいです」

何が嬉しいだ。私校長先生の顔なんてまともに知らないんですけど。先生だって私のこと知らないでしょ。あああ本当にイライラしてきた。何もかも壊してやりたい衝動ってこういうこと言うのかしら。

そんなことを考えながら、赤い下敷きをうちわ代わりにしながら仰いでると「ぷっ」という声が聞こえてきた。隣に立っている白石だ。いつもなら背の順とか名簿順とかで並ぶんだけど、今日はみんな暑いということで適当に並んでしまっている。私は一番後ろ。言っておくけど遅刻したわけではない(遅刻した人はさらに後ろのほうに並ばされている)ただ、校庭に出るのが面倒でたらたら歩いてたら一番後ろになってしまっていた。そんなわけで、普段なら隣になんてならないのに私の隣にいる白石が、可笑しそうにこっちを見て笑っている。

「何笑ってんのよ」
「いや、いかにも怒っとるって顔してて」
「じゃあ私が機嫌悪いこともわかってるよね?ちょっとのことなら流す私だけど今日はイライラしてるからそこんとこよろしく」
「ホンマ、おもろいなぁ」
「…人の話聞いてる?」

これが誰も居ないようなところだったら白石のことを殴り飛ばしているところだ。まぁその場合でも拳を受け止められて終わりそうだけど。あ、そんなこと考えてきたらまたムカついてきた。

、俺に一ついい案があるんやけど」
「何?変なこと考えてるんならあんた宛に不幸の手紙100枚書いてやるから覚悟の上で言ってね」
「おー怖いなぁ。そんな変なことやないって。ただここ抜け出す方法や」
「この衆人環視の中どうやって?」
「単純や。が気分悪い言うて俺が介抱しながらここを正々堂々抜け出す。そして冷房の効いた保健室へ」
「単純すぎるんですけど。しかも私が気分悪いって言っても信用されない気がする。明らかに健康体じゃん私」
「そこで俺の出番や。先生たちから信頼されてる俺が一緒なら100%の確率で信用されるで」
「あんた何信頼を逆手に利用してるの。最悪だね」
「どうとでも言い。で、乗るんか?乗らないんか?」
「…乗るしかないでしょ」
「よし来た」

ここを抜け出す方法ならもうなんだっていい。そんな思いで白石の案に乗った。けれど、次の瞬間私は後悔することになる。ひょい、と白石が私のことを持ち上げたからだ。そう、所謂お姫様抱っこをされているわけで。私は必死に小声で叫びつつ文句を言った。

「ぎゃああああ!何すんの!」
「何ってお姫様抱っこ」
「降ろせええええ!」
「抜け出すためや。我慢しい」
「降ろせええええ!」

そんな私を構うことなく白石はすたすたと先生のところへ歩いてく。遅刻したやつらがおもしろそうな顔でこっちを見てる。ああああうちのクラスのやつもいる。絶対後でなんか言われる!もう半泣きだ。

「先生、さんが気分悪いそうなんで保健室連れて行きます」

そう、うちの担任に許可を取ると白石は保健室へ直行した。保健室の先生は「あらあら」と言いながらベッドへ案内してくれた。そして余計な一言を投げかける。

「顔真っ赤よ、大丈夫?」

私が答える間もなく、白石は「大丈夫ですよ」と笑顔で答えた。な?と言った顔で私の顔を見る。私の顔が赤いのは、言うまでもなく、暑いからではなく。
絶対に不幸の手紙100枚書いてやる。心の中でそう誓った。









校長先生の有難いお話
(も、悪いもんではないなぁなんて思ったりはしてないから!)
07.09.03














今日普通の学校は始業式ですよね?間に合った!
ていうか普通中学は体育館で始業式ですか?うちの中学も体育館でしたけど、一般はどうなんでしょう。




タイトル配布元→capriccio