「よう」 試合が終わった後、家に来なよ。そう言ってあったので慎吾はちゃんとうちに来た。勝つこと前提で呼んだから、負けてしまったら来てくれないかな、とも思ったけどちゃんと来てくれて、少し意外だ。ああ、でもこいつこういうとこ律儀なんだよなあ、ふふ、と笑いそうになったけどこらえる。今慎吾の前で笑うのは、いけない。 「なんか飲む?」 「ウーロン茶?」 「疑問系で答えないでよ。いつもあるの知ってるでしょ」 はい、とウーロン茶をコップに入れて慎吾の前に出した。あんまり冷えてなかったから氷も入れて。サンキュ、と言われて、ん、と返す。なんだろう、何か変な感じだ。いつもならここでいろんな話題が出るのだけれど、今日は何も出てこない。いやな沈黙が流れる。 負けた慎吾に私は何と言えばいいんだろう。残念だったね、いい試合だったね、お疲れ様。どれも違う。どれも、私が言ってはいけない言葉なんだ。慎吾はそりゃあもう悔しかっただろう。最後の夏が、まさか初戦で終わるなんて。マネージャーでもなんでもない私が応援席で泣き崩れてしまったくらいだ。慎吾がどんなに悔しかったか、私には想像もできない。どのくらい悔しいのかわからないだけじゃなく、私は慎吾がどれだけ努力してきたかさえ知らない。すごく頑張ったのは知ってる。だけど、どんなふうに頑張ってるのかは知らない。私はただ慎吾の恋人というポジションで、野球部のメンバーではない。慎吾の頑張りを理解してあげられないし、悔しさもわからない。ああ、何なのこの距離は。 慎吾は絶対に私の前では泣かないだろう。私もここで慎吾に泣かれてもどんなふうに受け止めればいいのかわからない。慎吾の悔しさがわからない。今さらだけど、何で私は野球部じゃないんだろう。野球部が負けたことはもちろん、慎吾の悔しさをわかってあげられないことが悔しかった。私は一番慎吾の近いところにいる気でいたけど、慎吾の一番好きな野球のことをわかってないじゃないか。じわ、と涙が滲んできた。泣いちゃいけない。慎吾の前で泣くわけにはいかない。一番悔しいのは私じゃない。私の何倍も、下手すれば何百倍も慎吾は悔しがっているんだから。そんな慎吾の前で、私が泣いちゃいけないんだ。 「慎吾、」 「ん?」 「私は、慎吾が好きだよ」 何言ってんのこいつ、と言った目で見られたけど、慎吾はすぐに笑った。 「オレもお前が好きだよ」 わかってあげられなくてごめんね。本当はそう言いたかった。ごめんね。大好きだよ。 |