「っちー!」 部活が終わり、部室出ると昨日と同じ光景。 同じく部活を終えた黄瀬が満面の笑みで私を待っている。 「いやあ、今日も練習お疲れさまっス!オレもすっげ疲れちゃって〜」 「はあ…」 家までの道のりを歩けば黄瀬は私の後をついてくる。 つい一ヶ月前のこと、たまたま私が廊下の前を歩いている黄瀬の落とし物を拾ったのが事の始まり。 「落としたよ」と話しかけたら、その日から黄瀬は部室の前で私を待つようになった。 黄瀬曰く「一目惚れっス!」とのことだけど、私は正直展開についていけなかった。 「っち昨日のドラマ見たっスか?初っぱなのヒロインのボケが超面白かったっスよねー!」 「見てない」 「あ、そうなんスか?流行に流されないっちさすがっス!」 何がさすがなのかさっぱりわからない。 うざい…と言いそうになるのをぐっとこらえる。 この一ヶ月ずっとこんな調子だ。 一ヶ月、毎日。 部にもしっかりこのことは知れ渡っており、「今日も一緒に帰るの〜?」と言われたり、今まで一緒に帰っていた友人も「黄瀬くんと二人で帰りなよ!」と先に私を送り出すようになった。 …絶対みんな面白がってる。 「ああ〜、もう駅っスね」 「そうだね」 「また明日!! 「はい、バイバイ」 黄瀬は大きく手を振ってホームへ向かう。 …はあ、疲れた。 * 「昨日も黄瀬くんと一緒に帰ったんでしょ?」 今日も部活が終わり、部室で着替えていると友人からこんな質問。 「一緒に帰ったというか黄瀬がついてきたというか」 「いいじゃん、もう付き合っちゃえばいいのに」 「無理」 「そんな即答しなくても…イケメンだしバスケ部のエースだし、そんな人が好きって言ってくれてるのに、もったいなくない?ちょっと子供っぽいけど」 「いくらイケメンでバスケ部のエースだろうと毎日毎日つきまとわれてみなさい。うざく感じるから」 そう言って部室のドアを開けると、いつも通り黄瀬が待っている。 「っちー!」 「…はあ」 「第一声がため息とは冷たいっス!」 半泣きになる黄瀬を横目で見つつ校門へ向かう。 「っち、ほんとクールっスよね。このオレがこんなにアピールしてるのに〜」 「アピールって過剰すぎるとうざったいのよね」 「ひどい!ちょっと本気で傷ついたっス!」 そう言いつつも黄瀬は私の後をしっかり付いてくる。 そして昨日と同様テレビの話や部活であった面白いことなどを話してくる。 そんな調子で、今日もあっという間に駅に着く。 「あー、もう駅着いちゃったっスね」 「じゃあね、黄瀬」 そう言って別れようとすると、黄瀬は私の腕を掴んだ。 「ちょーっと待って!」 「え、なに」 「ちょっと寄り道しないっスか?ゲーセンとか、カラオケとか!」 「いい、特に行きたくない」 「んじゃなんか食べないっスか?」 「別にお腹も空いてない」 「えー…」 黄瀬は残念そうに肩を落とす。 そのくせ、腕は離してくれない。 「黄瀬」 「なんスか?」 「離してくれない、腕」 「えー?」 「『えー?』じゃなくて。帰れないじゃない」 黄瀬を見つめると、黄瀬は真剣な目で私を見た。 いつもみたいにヘラっと笑うと思ってたので、少しドキッとして固くなる。 「黄瀬」 「んー?」 「離して」 「離さないって言ったら?」 「なっ…」 「悪いけど、今日こそ落としてみせるって決めたんス」 「逃がさないっスよ?」と耳元で囁かれると、思わず顔が赤くなるのを感じた。 「な、なんなの、あんた、今日、なんかいつもと違くない!?」 「そうっスか?」 「そうよ、なんなのよ」 いつもいつも、ただヘラヘラとバカな話をしてるだけだったのに、こんな真剣な顔は初めて見た。 なんで、いきなりこんなに私がドキドキしなくちゃいけないんだ。 「っち、もしかしてドキドキしてる?」 「してない!」 「えー、またまた、嘘吐いちゃって」 「嘘吐きはあんたでしょ。さっきまでバカみたいだったのに、なんでいきなり、こんな真剣になってるのよ」 喋りがしどろもどろになってしまう。 これじゃ慌ててるのが黄瀬に丸わかりだ。 「っち」 「な、何よ」 「好きっスよ」 「な…っ」 「『私も』って言ってくれるまで、離さないっスよ?」 黄瀬は自分の手を私の腕から手に移動させると、私の指にキスをする。 黄瀬が私の手をいったん離して、唇にキスをするまで、あと10分。 傲慢姫と嘘吐き王子 12.08.01 何度も言いますが普段ヘラヘラしてる黄瀬がふと真剣な表情になるのがめちゃくちゃツボです 配布元→capriccio |