過去はよかったよね、なんてよく言うけれど、あれは何でだろうね。だって、私も確かに(中学の頃はよかったな)と思うことがあったりするけど、中学のときもそれなりに悩みがあったり嫌なことがあったりしたのに、よかったなって思うんだよ。過去はすごい。

「だから、まあ、未来になればこうやって話してる今も過去になるんだからさ、くよくよしてもしょうがないんじゃない?」
「うるせえ」

榛名はまた大きな溜め息をついた。そりゃ、失恋すれば落ち込むよね。私だって失恋したときはぼろぼろ泣いたものだ。1ヶ月前だっけ?榛名が先輩マネージャーのことを好きだと気付いた、あの日。
あの日は落ち込んだものだけど、次の日から気合を入れなおして榛名をからかうことにした。全力でからかってやる!一人でくよくよしてたってしょーがないじゃん!とまあ、我ながらすごいポジティブシンキングだ。

「過去は取り戻せないからきらきらしてるらしいよ」

私だって、失恋する前に戻れたらなあ、と思うことがある。あの頃は榛名に片思いしながら、いろんなことに一喜一憂して。同じ人に恋をしていても、望みのない恋とある恋ではまるで違う。からかったりしてはいるけど、やっぱり前より今のがつらいよ。
そうは思っているけれど、榛名のことをからかいだしてから、ずっと話す機会は多くなっている。榛名の話を聞いて、からかって、他にもくだらない話をして。以前は本当にただ見ているだけだったけど、今はこうやって話すようになって、昔の私から見れば、今の私はもしかしたら、うらやましいのかもしれない。
手に入らないものはやたら煌いて見える。過去は取り戻せなくって、それでいて、汚されることもない。だから綺麗に見えるんだ。

「だから、この失恋して泣いてるのだっていい思い出になるんだよ」
「いや、オレ泣いてねーんだけど」
「あれ?心で泣いてるんじゃないの?」
「お前なあ…」

また、榛名は大きな溜め息をついた。遠くを見つめる榛名の視線は、きっとあの人に向いているんだろう。
こうやって、榛名を慰めながら傷つく日々も、いつかは綺麗な思い出に変わるんだろうか。














キラキラメモリーズ
08.03.02




タイトル配布元→capriccio