はオレの隣で顔を伏せて、小さな声で泣いている。顔を見せないようにしても、泣き顔なんて小さい頃から何回も見てるんだからいいじゃん、と思ったけど、泣き顔を直接見たらもっとどうしたらいいかわかんねえな。ひっく、という声と同時に肩が動く。ああ、相当悲しいんだな。とはそれこそ生まれた頃から一緒にいるし、泣いてるとこもたくさん見てきたけど、こんなに大泣きしてるのを見るのは小2の春にのばあちゃんが亡くなったとき以来だ。
泣いてる原因は、高校生にはありがちな”失恋”というやつで。は中学生のときからずっと片思いしてた”佐山くん”にフラれたらしい。厳密にはフラれたわけではないんだけど。が相手に告白したんじゃなく、相手に彼女ができてしまった、ということだ。

「じゅん、た」
「…何?」
「ごめん、ね」

気にすんな、と言って頭を撫でた。はいつも、片思いの相手と何かあるといちいち報告してたなあ。今日はたくさん話ができたんだ、とか、なんか今日いい夢見たんだって、何だか私も嬉しくなっちゃった、とか、本当にどうでもいいことでも報告してきて、そのたび小さい子みてえと笑って怒られた。オレは笑ってはいたけど、本当はの気持ちはよくわかってる。オレだって、好きな子と話せりゃもちろん嬉しいし、その子が嬉しそうにしてたら、もっと嬉しい。だから、がいちいち報告に来るのは嬉しかった。すげえ笑顔で、嬉しそうにいろんなこと話す。胸の奥が少し締め付けられるけど、が幸せならそれでいい、と思ってた。


「…な、に?」
「元気、出せよ」

うん、と小さく返事をしては笑った。そんな、無理して笑うなよ、と言いたかったけどそれは飲み込んだ。今のに下手なことは言えない。いつもならちょっと突けば怒って返してくるけど、今のにそんな余裕はないだろうし。
元気出せよ、なんて、我ながら月並みな言葉だなあと思う。女が悲しいときって何をするのが一番なんだろう。肩を抱く、抱きしめる、優しい言葉を投げかける。どれもしっくりこなくて、オレって情けないな、軽く舌打ちした。

「準太」
「ん?」
「ありがとね」

また無理して笑う。つらそうで、見てられない。
こんなとき何をしてやればいいのかなんてわからないけど、もしオレが佐山だったら、迷わずを抱きしめるのに。








世界は白くて悲しくて
07.12.01



タイトル配布元→capriccio