3月上旬、今日は卒業式だ。 今日まで何度も何度も、この日が来なければいいと願ったのに時間は非情なもの。 通いなれた校舎とも、級友たちとの別れ。 卒業式が終わった後、教室で友人たちと写真を撮っているとき、その中の一人がいきなり口を開いた。 「、白石くんに告白せんの?」 今まで撮った写真を確認中だった私は危うくデジカメを落としそうになった。 「え、えええ!?」 「だって今日で卒業やん」 「だけど私白石と同じ高校行くし…」 「まあ、そらそうやけど」 そう、白石と同じ高校へ行くために一生懸命勉強して、見事合格したんだ。 気持ちを伝えるような勇気はない私には、それが精一杯。 友人の言うような「告白」なんて、私には無理。 「でもさあ、白石くん大人気やん。今日誰かに告白されて付き合っちゃうとかあるかもしれんよ?」 「う…」 「まあ、の自由やけど。せめてボタンとかもらってきたら?適当に『3年間同じクラスだった記念』とか言えばええやん」 そう言われ教室以外に卒業生が集まってる校庭へ送り出された私は白石を探した。 ボタンもらうことだって私には勇気がいることだけど、確かにこのまま中学生活が終わるのは寂しい。 もらえなくたって、最後に何か会話をするくらいなら、小心者の私だってできるはず。 そう決心して周りを見渡すけど白石は見つからない。 テニス部の人たちと一緒にいると思うけど…。 「忍足!」 「、慌ててどないしたん」 クラスメイトの忍足を見つけて駆け寄って話しかける。 さすが人気のテニス部、忍足の学ランにはボタンが一つもなかった。 「白石、どこにいるか知らん?」 「白石?あー、なんや女子に追っかけまわされて逃げとったけど」 「追っかけ…」 予想してたことだけどやっぱりそうなんだ…。 今は隠れてるだろうから見つけられるだろうか。 考え込んでいると忍足がこっそり耳打ちしてきた。 「でかい声では言えへんけど、多分校舎裏におるで」 「えっ?」 「最初そこに隠れとったら見つかったんやけど、さっき同じところは探しに来ーへんやろって言うとったから」 「早う行ったほうがいいで」と忍足は背中を押してくれた。 ありがとうと伝えて私は走り出した。 息を切らして校舎裏へ行くと、そこに確かに白石がいた。 「白石!」 「おお、やん」 「あの、」 心を決めた!もう大丈夫!って思ったはずなのに、いざ会うと言葉が出てこない。 ボタンください、じゃなくてもいい。何か会話をするだけでいい。 そう思っていたのに私の頭は完全にパニック状態になっていた。 「あの…えっとね。その」 無駄にジェスチャーしながら目を泳がせていると、白石の学ランのボタンが一つもないことに気づく。 追いかけまわされていたと聞いたとき、覚悟はしていたけどやっぱり…。 「何慌ててるん?」 「いや…別に慌てているわけではないんやけど」 「ああ、ボタン?申し訳ないんやけど売切れなんや」 「あ、やっぱり…」 思わず俯くと、なぜか白石は学ランを脱ぎはじめたと思ったらそれを私に差し出した。 「え」 「いや、もうボタンないから代わりにこれで」 「ええええ!?」 まさか学ランをもらうことになるなんて思っていなかったから、驚いて大声をあげてしまった。 「いや、学ランなんてもったいないやん!」 「そら、どーでもいいようなやつにあげたらもったいないやろうけど」 白石は私の肩に学ランを掛けると、頭を撫でながら優しい声で話した。 「やったら、もらってほしいなあって思ってん」 「え…」 「3年間同じクラスだったの、だけやしなあ」 あ、そういう意味…。 残念ではあるけど、そうやって気にかけてくれたことは素直にうれしい。 「あの、白石」 「ん?」 「高校行っても、よろしくね」 「こちらこそ」 白石の温もりが少し残った学ランを持って、私は教室へ戻った。 ボタンだってもらえると思っていなかったから、なんだかドキドキが止まらない。 教室では友人たちに「そこまでしてもらってなんで告白しなかったんや!」と怒られたりしたけど とりあえず、この学ランだけで幸せに思う私は欲がなさすぎるんだろうか。 「白石、やっぱここにいたんやな」 「おお謙也、そっちもボロボロやな」 「学ランまでないやつに言われても嫌味にしか聞こえんわ」 「これは取られたんやなくてにあげたんや」 「へえ、オレがお膳立てしとった甲斐があったっちゅーわけか。ええなあ、白石もついに彼女持ちか…」 「別にあげただけで告白したわけやないで」 「って、結局告白せえへんかったんかい!」 「やかましいわ」 「せっかくオレがお膳立てしたのになあ。高校一緒やしタイミング図りたい気持ちもわかるけど」 「そうなんや、なんかっていきなり告白されたら折れそうでなあ。付き合うとか考えてなさそうっちゅーか」 「普通『触れたら折れる』やろ。まあ納得やわ、その表現」 11.03.21 今まで白石の話って白石がいきなり告白するようなやつばっかだったんで もうちょっと告白できないでもやもやする白石とか書きたないあって思ってこんな感じに。 明らかに脈があるのに告白しないのっていったら、そういうことを相手が考えられてなさそうなときかなあ、と思いました。 配布元→capriccio |