七夕というのに生憎空は雨模様。 ちょっと残念だなあ、と思いながら駅から自分の家への道を歩いてく。 「はあ」 全く星の見えない空を見上げてため息を付く。 「わっ」 「あっ…ごめんなさい!」 前を見ていなかったせいか誰かとぶつかってしまった。 この雨の中、傘を差してる状態で人にぶつかってしまうとは。 慌てて相手に謝る。 「あれ、?」 「あ、氷室」 ぶつかった相手はクラスメイトの氷室だった。 ちょっとだけホッとした。 いや、申し訳ない気持ちは変わらないけど、知らない人と知ってる人じゃやっぱり違う。 「ごめんね、前見てなくて」 「いや、大丈夫だよ。は今帰り?」 「うん、友達と遊んでて。氷室も?」 「ああ」 「へえ、じゃ、私たち家近いんだね」 クラスメイトと言ってもそんなに親しいわけではない。 住んでる場所なんて知らなかったけど、家が近いとなるとちょっと親近感だ。 「家、どっちの方?」 「こっち」 「あ、オレも。本当に近そうだね」 そんな会話をして氷室と一緒に歩き出す。 「今日、七夕なのに雨で残念だね」 「七夕…ってなんだっけ」 「え」 「いや、なんとなく聞いたことあるんだけど…」 「し、知らないの?笹に願い事書いた短冊飾ったりとか」 「ああ、昔やったような…」 「そっか、ずっとあっちにいたんならあんまりわかんないか」 そういえば氷室はずっとアメリカに住んでいたとか。 それなら知らなくても不思議じゃない。 「じゃあ天の川は知ってる?」 「ああ、天気予報で言ってたよ」 「織姫と彦星は?」 「…なんか聞いたことがあるような…」 「えっと、織姫と彦星って夫婦がいたんだけど、仲が良すぎて二人とも仕事しなくなちゃって、 怒った神様が天の川で2人を引き離したの。でもさすがに可哀相だと思ってくれたみたいで、一年に一回会えるようにしてくれた。でも雨が降ると天の川が増水して渡れなくなっちゃうんだって」 「ああ、じゃあ今日は会えないんだ。だから残念?」 「そう。でもこの時期って基本梅雨だからあんまり会えないんだよねえ」 空をもう一度見上げても、相変わらず雲が覆っているだけだ。 わかってはいるけど、やっぱり寂しい。 「女の子はこういう話好きそうだもんね」 「やっぱりロマンチックだからね。一年に一回しか会えないとか。 今日もいつものみんなで遊ぼうと思ってたけど一人は彼氏と七夕デートっていうし」 「ははっ。やっぱり七夕にデートしたいんだ」 「そりゃあね。そういう氷室は?」 「何が?」 「いや、デートとか。氷室モテるじゃない」 「そんなことないけどなあ」 ふっと目を逸らして氷室は答える。 「今日も普通に部活帰りだし」 「彼女いないんだ」 「いないよ。そういうは?」 「いたらやっぱりロマンチックに七夕デートとかしたかったよ」 私は笑いながらそう言った。 やっぱりちょっと憧れる、ロマンチックな七夕デート。 「じゃあしようか」 「え?」 「七夕デート」 言ってる意味がよく理解できず、少し沈黙が流れる。 「え、えええ!?」 「そんなに驚かなくても」 「いや、だって…」 ああ、そうだ。冗談とかそういう類の。 氷室はアメリカ育ちだしアメリカンジョークとか…。 「オレは本気だよ」 そう思っていたら、考えを見透かされたのような言葉。 「いや、だって、デートって…デートだよね?」 「うん。デート」 「…デート…」 「オレが相手じゃ不服?」 「なっ…」 私の傘まで入って顔を覗き込んでる氷室。 思わず顔が赤くなる。 「不服とか、そういうのじゃなくて」 「大丈夫だよ、そんなに遅くまで連れまわさないから」 そう言って氷室は私の手を取る。 別に強く握られているわけではないのに、振りほどけない。 「どこか行きたいところはある?」 「…雨が防げるところに」 「了解」 氷室は私の手を引いて歩き出す。 雨空だけど、今までの晴れた七夕よりロマンチックな日になりそうだ。 クラシカルレイン 12.07.07 七夕は時期的に雨が多いのが残念ですね しかも東京はそもそも月齢的に天の川が非常に見難いそうです そういえばまともに天の川を見た覚えありません… 配布元→capriccio |