「あんた、よく食べるわね」
「そりゃもう、成長期っスから」

バスケ部が休みの今日、せっかくなので一緒に昼食を食べることとなった。
涼太の前には複数の空のお皿。
体が大きいんだからそりゃたくさん食べるのは当たり前だけど、何度見ても驚く。

「さて、これからどうするっスか?」
「どこでもいいよ。そっちこそなんかある?買いたいものとか」
「んー、じゃ、オレん家来ないっスか?」

今日誰もいないんで、と涼太は付け足す。
まだ高校生、もう高校生。
誰もいない男子高校生の家に行くことがどういうことかはわかってる。

「いいよ」

ここで躊躇うような純粋な心は私も涼太もとっくの昔に失くしてしまった。
15、6だというのになんだか荒んでいるなあ、とぼんやり思う。





「とりあえず、なんか飲むっスか?」
「何があるの?」
「えっと、お茶と牛乳とオレンジジュースと…それぐらい?」
「じゃあ、お茶」

そんな会話をしながら涼太の部屋のクッションに座る。
一方涼太は早足で台所へ向かうと、さっさとお茶を二杯持って帰ってきた。

「ありがと」
「どーもっス」

テーブルに置かれたコップを取ろうとすると、その腕を掴まれた。
すると涼太は私の体を無理矢理自分のほうに向ける。

「まだ昼間だよ」
「でも夜になったら親帰って来るし」

小さな抵抗のつもりで言ってみたけど意味がない。
涼太は私をベッドに押し倒す。

結局すぐこれか。いつもそう。
今日も最終的にこうなるのはわかっていたけど、もう少し普通の会話したり、テレビを見たりとか、できないものかな。
そりゃ健全な男子高校生、こうなるのはわかるけど。

「お茶温くなっちゃうよ」
「また持ってくるっスよ」
「もったいない」


うだうだ言い続ける私を黙らせるように、涼太は耳元で私の名前を囁く。

「好きっスよ」
「嘘吐き」

そう言うと涼太は面食らった顔をする。

「なんスか、いきなり」
「さあ?」

適当に流すと、涼太はすぐに表情を戻す。
涼太にとっては別にどうでもいいことなんだろう。

私にとってはとても大事なことなのに。

「涼太、好きだよ」
「オレもっスよ」

涼太はそう言うけど、私の好きと、涼太の好きは違う。

大好きだよ、涼太。ほかの女の子なんか見てほしくないくらいに。
だけどそんなこと言ったら涼太は私から離れてしまう。
「重い気持ちなんていらない」と涼太は思ってるから。

私は涼太が好き。涼太も私を好きと言う。
涼太の言葉は嘘ではないんだろうけど、本当のことではない。
それでも私は気付かないふりをし続ける。
だってそれしか涼太の隣にいる方法がないから。

「好きだよ、世界で一番。誰よりも」「私だけを見てほしい」
そんな言葉を全部飲み込んで、涼太の唇にキスをする。

こんな関係がつらくないって言ったら嘘になる。
でも、一緒にいたいから。叶わないなら、せめて隣にいたいよ。
私と涼太の「好き」は違うけど、私は今間違いなく涼太の彼女で、涼太は私の彼氏。
それだけは間違いないから。

「ねえ」
「んー?」
「早くしないと、帰って来るんじゃないの、親」
「まだ大丈夫っスよ。それとも早くしてほしい?」

少し意地悪く笑う涼太。
私も同じように笑って、余裕そうに「そうかもね」と答えた。
自分の思いを悟られないように。

ああ、私も大概嘘吐きだ。











幾億の声を殺すのでした
12.08.21

悲恋とするべきかそうしないべきか迷ったんですが全然報われていなんで一応悲恋枠に



配布元→capriccio