「ね、ちょっと寄り道していい?」

花宮と映画を見た帰り、そう言って花宮を帰りに買い物に誘う。

「どこに」
「買い物」
「帰るぞ」
「私は映画付き合ったじゃない」

今日の映画は花宮が見たいと言った映画だ。
少しくらい私に付き合ってくれてもいいんじゃないかと言うと、花宮は渋い顔で頷いた。

「…すぐだからな」

なんだかんだ付き合ってくれる。花宮はこういうやつだ。


目的の雑貨屋に着くと、花宮は嫌そうな顔をする。
まあ、男が来る場所じゃないしね。

「何買いに来たんだ」
「バレッタ」
「オレが付き合う必要がどこにあんだよ」
「いいじゃない。すぐだから」

そう言って目的のバレッタを手に取ってレジに向かう。
買いたいものは決まっていたし、あまり花宮を待たせるのも悪いから急ごう。

「あ、これ可愛い」
「すぐじゃねーのかよ」

レジの前にあるピアスにが目に留まる。
シンプルで可愛い。

「お前ピアス開けてねーだろ」
「うん…でもこれ可愛いなあ」

ピアスは開けてないんだけど、これは可愛い。
ただ、うーん…。

「買えば」
「この間服買っちゃったからなあ…」

目の前のピアスは、学生に優しい金額設定のこの雑貨屋の中ではなかなか値を張るものだ。
この間服買っちゃったばかりだし、財布に余裕がない。

「じゃあ諦めろ。とっとと会計済ませろ」
「はいはい」

このままじゃ本当に花宮が帰ってしまいかねない。
そう思ってレジへ向かった。





「お邪魔します」

数日後、花宮に呼ばれて彼の部屋に行った。
相変わらず部屋は片付いている…というか、物がない。

いつもの場所に座ると、花宮はぽいと一つ包みを投げ渡してきた。

「やる」
「え、なに」

無造作に渡された包み。包装はこの間行った雑貨屋のものだ。
疑問に思いながら包みを開けると、そこにはこの間のピアスが入っていた。

「え…」

恋人からのプレゼント。しかも私がほしいと言っていたもの。
喜ぶべきなんだろうけど、なぜかまったく喜べない。
それはプレゼントの主が花宮だからだろう。

「何、え、何企んでるの?」

花宮が見返りを求めずこういうことをしてくるとは思えない。
絶対何か企んでる。

「よくわかったな」

花宮は楽しそうな顔で答える。
右手には何かが握られている。

「開けさせろよ、ピアス」

花宮の手の中には、ピアッサー。
私の顔から血の気が引いた。

「え、遠慮します」

花宮にピアス開けてもらうなんて恐怖以外の何物でもない。
どこに開ける気だ、とか、どうやって開ける気だ、とか、嫌な想像ばかりしてしまう。

「遠慮すんなって」
「いや、別に自分で出来るし!」
「あ?」

そう言うと花宮は一気に不機嫌な顔になり、私の手から先ほどのピアスを奪い取る。

「んじゃこれはいらねーか」
「……」

ピアスを盾に取られた。
こうなったら、うなずくしかない。

「…や、やってください」
「最初っからそう言えばいいんだよ」

花宮はすべてわかったような顔で笑う。
そういうところが、とても鼻につく。

だって、そんなこと言われたら断れるわけがない。
欲しかったピアス。しかもなかなかの値段で、これを逃したら自分ではすぐには買えない。
それに何より、花宮から初めてもらったものなのだ。
こんな交換条件のような形でも、それでも、手放したくはない。

「変にしないでよ」
「やだなあ、そんなことするわけないじゃないか」

花宮は学校にいるときのような「猫かぶり」声でそう言ってくる。
ああ、ノリノリなんだな…とわかる。
私は気が気じゃない。
はっきり言って、ものすごく怖い。

「……」
「すげー顔してるぞ」
「あんたの普段の行いが行いだからね」
「なんのことかな?」

合間合間に挟んでくる小芝居が恐怖を煽る。
もういいからとっととやってくれ。
そう思った私は黙ることにした。

「動くなよ」
「……」

花宮が私の右耳に触れる。
心臓が跳ねる。

「動くなっつの」

少し顔が赤くなるのがわかって、恥ずかしい。
だって、反則だ。
こんなときばっかり、優しく触れてくるなんて。

「……」

花宮は私の耳を消毒してピアッサーを宛がう。
緊張する。当たり前だ。
自分の体に傷をつけるのだから。

「…つっ」

花宮は合図も何も言わず私の右耳にピアスを開ける。
耳朶に痛みが走る。

「…痛い」
「だろうな」

花宮はピアスのキャッチをつけるともう一度消毒する。

「……」
「なんだよその顔は」
「いや、意外と普通に開けてくれるんだなーって」
「よし左耳はどう開けてもらいたい?」
「いやー花宮さんは本当に優しいですよねー!」

嫌味っぽく言ってやると花宮は「はっ」と笑った。
今度は左耳にピアスを開ける。
また、耳に痛みが走る。

「しばらくつけたままにしておけよ」
「うん」

ピアスホールが安定するまで、花宮からもらったピアスはお預けだ。

「わっ」

花宮はぐいと私の耳を引っ張る。
さっきとは違う痛みだ。

「ちょっと、何すんのよ」
「……」

花宮は私の耳を見つめると、怪しく笑った。

「このピアス、一生開けたままにしておけよ」

満足げに言う彼の表情を見て、ぷいと顔を背けた。

「…変態」
「はっ」

それを嬉しいと思う私も、大概だ。










花に傷
14.06.03




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