先日、バスケ部に新聞部の取材が来た。
新年度ということで新聞を発行するようだ。特に新入生に向けた特集が多いそう。
いろんな部員に話を聞いて回っていたようだけど、やはり熱心に聞かれていたのはレギュラーたち。
特に辰也に熱心に話を聞いていたのは気のせいではないだろう。
*
授業が終わり、部活の始まる時間になる。
今日の部活はミーティングのみ。
誰も着替えていないだろうとノックせずに部室のドアを開ける。
「あれ、敦。珍しいね。こんなに早く来て」
部室に入ると、そこにいるのは敦だけ。
だいたい遅く来るのに、珍しい。
「ホームルーム早く終わって暇だったから」
「そっか」
お菓子を食べる敦の前の席に座る。
机の上にはすでに空になったお菓子の袋が置いてある。
「こんなに食べたの?」
「うん。お腹空いた」
「もう…お腹空いたら多少はしょうがないけど、あんまりお菓子ばっか食べてちゃだめだよ」
机の上のお菓子のゴミを片付ける。
敦には散らかすたびに「片付けて」と言っていたけど、何度言っても聞かないので諦めた。
「あれ…」
ゴミ箱にお菓子の袋を捨てると、ゴミ箱の横に校内新聞が置いてあるのに気付いた。
「あ、これこの間の取材されたときのじゃない?」
新聞を手に取って再び敦の前に座る。
この間新聞部から取材された記事も載っているだろう。
「そうじゃん?多分」
「あ、敦の写真あるよ」
「ほんとだ〜」
ざっと記事に目を通す。
部活の楽しいところとか、今年の部活の目標とか、そう言ったインタビューの中、一つの項目に目を丸くする。
「えっ、好みのタイプなんて聞かれたの!?」
部のことがメインで聞かれている中、この質問は突然すぎる。
驚いていると、敦は何でもない顔で頷いた。
「うん。女子からウケがいいから聞きたいって言われた」
「…なるほど…」
確かにうちの部は有名だし、「好みのタイプ」はそりゃウケがいいだろう。
「敦は背の高い子が好きなの?」
先ほどまで読んでいた敦のインタビュー。
その中で敦は好みのタイプは「背の高い人」と答えている。
「うん。ちっちゃいと話すのも大変なんだもん」
「ああ、なるほど」
敦ほど大きいと、背の低い人とでは日常のちょっとしたことでも不便を感じるようだ。
でも、そうは言っても敦が好きになる子が背の高い子とは限らない。
実際敦が好きになる子はどんな子なんだろう。
ちょっと楽しみにしつつ、新聞の続きを読んだ。
「……」
敦以外のレギュラー陣、推薦で入ってきた有望な新入生、そう続いて最後に辰也の項目がある。
まるでクライマックスと言わんばかりだ。
少し緊張しながら辰也のインタビューを読んでいく。
部活の楽しいところはそのままでバスケが楽しい。
今年の目標はもちろん全国制覇。
うんうんと頷きながら読み進めていく。
「…好みのタイプ」
「包容力のある女性だって」
いつの間にか敦が覗き込んできている。
そう、辰也は「好みのタイプは?」と聞かれ「包容力のある女性」と答えている。
包容力、とは…。
「私って、包容力、ある…?」
ぽつりとつぶやくと、敦がお菓子を口に含みながら話し出した。
「あるんじゃないの?室ちんの好みのタイプなんてどうせちんでしょ」
…まあ、確かに辰也の彼女はこの私だ。
でも、好きな人がイコールで好みのタイプになるとは限らない。
そりゃ「好みのタイプ」であるより「好きな人」という存在でいたいけど、できれば「好みのタイプ」兼「好きな人」でありたい!
「包容力ってどうやれば鍛えられるかな…」
「あんまり鍛えると痛そうだよね」
「いや、辰也が言ってるのは物理的な力じゃないと思う」
直に抱きしめるわけじゃないんだから、いくら鍛えたところで痛くはないだろう。
「ちょっとした冗談じゃーん。ちんオレのことバカにしすぎ」
「ご、ごめん…」
「も〜」
敦は唇を尖らせる。
敦は冗談と本気の区別がつかないから困る…。
「…敦、包容力ってなんだと思う?」
「包容力のある人」とは良く言うけど、実際どういう人を指すんだろう。
どちらかというと大人っぽいイメージなんだけど、そうだとすると私は当てはまらない気がする。
子供っぽいというより、年の割に幼い気がする…。
「んー、優しい人とか?」
「優しい…」
「うん。お菓子くれる人とか。ってことではい」
敦はそう言って大きな手をずいと出してくる。
「…それ、今敦がお菓子欲しいだけで言ったんでしょ?」
「そんなことないよ〜真面目に考えてるって」
「お菓子さっき食べてたでしょ?もう今日はおしまい」
「えー」
「敦はお菓子食べ過ぎ!」
ちょっと甘やかすと敦はすぐこれだ。
いくら大食漢の敦だってあまりお菓子ばかり食べていると夕飯が入らなくなってしまう。
私も敦とお菓子を食べるのは楽しいけど、多少は自制させないと。
「えー…」
「ダメなものはダメ!」
「…ちん優しくない」
「えっ」
敦は唇を尖らせる。
いつもお菓子を我慢させるとこう言われるけど、今回は胸に刺さる。
「包容力欠片もないね」
「……」
「室ちんに嫌われるんじゃない?」
「敦っ!」
「わー、怒った〜」
敦は半分棒読みでそう言うと、両手をあげて降参のポーズを取る。。
…敦は本当にもう。
「……」
もう一度校内新聞を読む。
『包容力のある女性』かあ…。
やっぱり今みたいなので怒ってたら包容力ないのかな…。
…いや、うだうだ悩むより辰也に聞いてみよう!
気になることはお互いちゃんと聞こうって言ってるし。
自分で考えただけで落ち込まないで、ちゃんと聞こう。
*
「はい」
「ありがとう」
後日、辰也の部屋に来た。
まだ少し肌寒い4月の陽気、辰也の淹れてくれた蜂蜜の入ったホットミルクを飲むと、心の中から温まっていくようだ。
「ね、辰也」
「ん?」
「あの、辰也の好みのタイプの!」
「?だよ」
「えっ、あ、うん」
好みのタイプの包容力ある人っでどんな人?と聞こうとしたら、その前に私の名前を即答されてしまった。
うれしいけど今はそこじゃなくて。
「あの、前に校内新聞の取材来たでしょ?」
「ああ、あれか」
「そのときに好みのタイプって聞かれてたから」
そう言うと辰也は苦笑する。
「好みのタイプって聞かれたからって答えたら、個人名はちょっとって言われちゃって」
「あ、そうなの…?」
好みのタイプに私の名前を答えてくれたこと、少し恥ずかしいけど、やっぱりうれしい。
「だからの印象答えたんだよ」
にっこり笑って言われる。
包容力、か…。
「私、包容力、ある…?」
自分で「私包容力あります!」って言える人はいないだろうけど、それにしても自信がない。
私がイメージする包容力って、大人の人が持っているものだと思うんだけど、私に本当にあるんだろうか。
「あるよ、すごくね」
辰也は私の頭を撫でて、優しく抱き寄せてくれる。
「オレがつらいとき、いつもなにも言わずにそばにいてくれる。優しく抱きしめてくれる。それがとてもうれしいんだ」
辰也は何かを思い出すように、噛みしめるように、一つ一つ大切に言葉にする。
辰也のまっすぐな瞳が、嘘でも誇張でもないことを教えてくれる。
「…そっか」
「うん」
「そっかあ」
辰也の腕の中に身を任せる。
如何とも形容しがたい、甘いときめきが胸の中に広がっていく。
「すっごく嬉しいよ」
ぎゅっと辰也に抱き付くと、辰也の胸の鼓動が聞こえる。
辰也が私を好きでいてくれていること、それはわかっていたけど、好みのタイプもそうだよって言ってくれること、それがとても嬉しい。
「の好みのタイプは?」
辰也はこつんとおでこを合わせて聞いてくる。
全部わかったような目で。
「知ってるでしょ?」
「聞きたいんだ」
辰也の頬にキスをして、囁くように言った。
「辰也だよ」
笑ってそう言うと、辰也も嬉しそうに笑う。
嬉しくなって、私たちは何度もキスをした。
14.12.26

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