8月。照りつける日差しが眩しい。
本当はこんな日に出かけたくないのだけれど、恋人である千尋から「うちに来ないか」と言われたので外に出た。
私の家にはたいてい親が居るので、私たちが会うのは千尋の家が大半だ。

千尋の家のインターホンを鳴らす。
ガチャリと鍵の開く音がする。

「いらっしゃい」
「お邪魔します。アイス買ってきたよ」

千尋の家に来る途中、サーティワンが目についた。
体が冷たいものを欲していたので、迷わず自分の分と、あと勝手に千尋の分を見繕った。

「何味?」
「ダイキュリーアイスとマスカットバスケット。好きなほうでいいよ」

どちらも私は食べたことがない。
新しいのに挑戦しようかなと思って買ったものなので、私はどっちでもいい。
袋を差し出すと、千尋はマスカットバスケットを手に取った。

「これ食ったことねえ」
「じゃあどうぞ」

そんな会話をしながら玄関から千尋の部屋に入る。
上から吹いてくる冷気の風に体を身震いさせた。

「寒っ!エアコン効きすぎじゃない?」
「普通だろ」
「千尋いつも下げすぎだよ。体壊すよ」
「壊さねーよ」

エアコンのリモコンを手に取って温度を少し上げる。
せめて25度にしよう。

「おい」
「アイス食べるしいいでしょ」
「……」

千尋は文句を言いたそうだけど、私ににらみつけられて黙った。
いつも千尋はエアコンを下げすぎなのだ。
暑さに弱いらしいから多少は仕方ないけど、19度設定はやりすぎだ。

「クソ暑くてやる気しねえんだよ」
「まあ気持ちはわかるけど」

袋からアイスのスプーンを出す。
一口食べると、酸味が口の中に広がった。

「うまいのか?」
「おいしい…んだけど不思議な味」

結構酸味が効いていて、甘いものが多いアイスの中では異質な味だ。
でも、おいしい。

「なんだろ…癖になる感じ?好き嫌いは結構分かれるかも」
「ふうん。一口」

千尋がずいと顔を私のほうに出す。
アイスを一口掬って千尋に食べさせた。

「……」
「どう?」
「うまい…けど、確かに不思議な味だな」

千尋は飲み込むと不思議な表情をする。
とはいえ、まずいものを「うまい」と評するタイプの人間ではないので、おいしいのは本当なんだろう。

「そっちは?」
「普通にうまい」

千尋の持つカップからアイスを一口掬う。
…うん、おいしい。

「おいしいね」
「ああ」
「でもこっちのが好きかなー」

ダイキュリーアイスのカップを持ち上げてそう言う。
なんだろう…この感じ。

「あー、なんかこのアイス千尋っぽいのかも」
「はあ?」

私の言葉に千尋は怪訝な顔をする。
自分が突然食べ物に例えられたんだから当然だろう。

「なんかちょっと変わった味で」
「変わってて悪かったな」
「甘いのが多いアイスの中で酸っぱいのがまたひねくれ者っぽくて」
「どうせひねくれてるよ」
「でも一回好きになるとどこまでもはまっていく感じ」

そう言うと千尋がスプーンをテーブルに置いて、じっと私を見た。

「…お前」
「何?」
「よくそんなこっ恥ずかしいこと言えるな」

千尋はくしゃりと頭を掻きながら、テーブルに肘をついた。

「まあね」

最後の一口食べて、スプーンを口から離す。
瞬間、千尋の唇が私の唇に触れる。
マスカットの味だ。

「……」
「食われっぱなしは癪だ」

そう言うと千尋はもう一度キスをする。
エアコン、下げたままにしておけばよかった。









ダイキュリーアイス
14.08.10


10周年アイス企画!
黛さんはダイキュリーアイスがぴったりだと思います




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