「お疲れー」
「お疲れさま〜」
強豪バスケ部は夏休みでも毎日毎日部活がある。
ようやく今日の練習が終わり、同じバスケ部の虹村と一緒に校門をくぐった。
「オレちょっと寄り道してえんだけど」
「いいよ。どこ?」
コンビニとかかな、と思いながら聞いたら、意外な答えがかえってきた。
「サーティワン」
「えっ?アイス買うの?」
「アイス買う以外にあそこで何すんだよ」
「そうだけど…珍しいね?」
「家族が帰りに買って来いってさ」
虹村は携帯のメール画面を見ながら言った。
なるほど、それなら納得だ。
虹村はあまり甘いものは積極的に食べる方じゃないから、虹村の口から「サーティワン」という単語がでてきたときは何が起きたのかと思った。
「いらっしゃいませー」
いつもの帰り道とは違う道に入って、サーティワンに来た。
店内の涼しい空気が気持ちいい。
虹村が店員さんに頼んでいる間、私は並べられているアイスを眺めた。
…なんか、二人でこういうところ来るって、デートみたいだ。
エアコンの風で冷えた頬がまた熱くなる。
一応、私と虹村は恋人同士という関係だ。
でも、手をつないだのも付き合うことになった日だけで、部活部活の毎日だからデートに行ったこともない。
ただ一緒に帰るだけの日々が続いてる。
そんな毎日もうれしいけど、もう少し何か、と思う気持ちは拭えない。
「…おい、」
「…」
「!」
「え!?」
大きな声で虹村に名前を呼ばれて、ぱっと顔を上げた。
「な、なに?」
「じーっとアイス見てるからなんか買いてえのかって聞いたんだけど」
「あ、そうだね…せっかくだから」
虹村は私を訝しげな表情で見つめる。
確かにさっきの私はパッと見アイスとにらめっこしてる人だもんね…。
「チョコレートのレギュラーください」
「お持ち帰りですか?」
「食って帰れば?暑ぃし」
「うーん、そうだね…」
テイクアウトにするつもりだったけど、虹村に言われて食べながら帰ることにした。
「ありがとうございましたー!」
私はコーンのアイス、虹村は袋に入ったアイスを持ってサーティワンを出た。
「あ、虹村少し食べる?」
自分で口を付ける前にそう聞いてみる。
二人で帰ってるのに一人で食べるというのも変な感じだし。
「甘いのあんま好きじゃねえんだけど」
「チョコレート意外と甘すぎないよ?ちょっと苦味もあるし」
「…ふうん。じゃあ一口」
「うん」
そう言ってアイスを渡そうとして気付いた。
もらったスプーンは一つしかない。
これじゃ、間接キスになる。
「……」
「何だよ、くれねえのかよ」
「あ、ごめん…」
あげると言った手前、やっぱりやめたとは言えない。
少し緊張しながら虹村にアイスをスプーンを渡した。
虹村は受け取ると、スプーンでアイスを掬って口に運ぶ。
ドキドキしながらその様子を見守った。
「…確かに、ちょっと苦ぇな」
「でしょ」
「ああ、うまい。サンキュ」
虹村は何も気にしていなそうな顔で私にアイスとスプーンを返す。
まあ、確かに部活でよく回し飲みとかしてるし、慣れていると言えば慣れているのか。
でも、同姓の友達とするそれと、今回はやっぱり違うと思うんだけど、虹村はそうじゃないのかな。
「……」
ドキドキしながらスプーンでアイスを掬った。
どうしよう。なんだか躊躇ってしまう。
「、顔上げろ」
「?」
そう言われてアイスを口に運ぶ前に虹村のほうを見上げた。
虹村は少し体を屈ませて、私の視線の高さに顔を持ってくる。
顔が近い。
「!」
あまりの近さに驚いて、声を上げそうになるけど、何も言えなかった。
私の唇は、虹村の唇によって塞がれた。
「え、な、なんで」
唇を離すと、虹村はふいと前を向いてしまう。
辛うじて見える耳が少し赤いのは気のせいだろうか。
「なんとなく」
「なんとなくって…」
「最初が間接っつーのも、ビミョーな気がしただけ」
自分の手にあるアイスとスプーンを見た。
虹村も、ちゃんと意識していたのか。
私だけじゃないんだ。
「…虹村」
「……」
「…もう一回、って言ったら…」
先を行く虹村に小走りで追いついてそう言ったら、虹村は大きな手のひらで私の顔を掴んだ。
「ぎゃっ!?」
「バカ言ってんな」
「ば、バカ!?」
「食い終わってからにしろ」
虹村は少し上ずった声でそう言うと、手を離してくれる。
胸の奥が、痛い。
虹村の顔が赤いのは、気のせいではなかった。
アイスを口に運んだ。
チョコレートの甘い味が口の中に広がった。
チョコレート
14.08.19
10周年アイス企画!
シンプルでちょっと苦味のあるチョコレートが虹村先輩にぴったりだと思います
感想もらえるとやる気出ます!
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