『宅急便でーす』
「はいはーい」

インターホンが鳴ったので出てみるとそこには宅配のお兄さんが。
ハンコを持って玄関まで行った。

「申し訳ありません、箱少し潰れてしまいまして」
「あらら」
「中身が無事がどうか一緒に確かめてもらえますか?」

確かに箱の端が少し潰れている。
本当に端っこだから中身には影響ないだろうけど、相手もやらなくちゃいけないんだろう。

「……」

とはいえ、ちょっと迷う。
宅急便の宛名が、私宛ではなく同居人の福井健介宛だからだ。

「はい、わかりました」

まあ、いいか。
見られて困るものなんて送らないだろう。
そう思ってお兄さんと一緒に箱を開けた。

中身は、私の見てはいけないものだった。





「ただいまー」
「…おかえり」

夕方、健介が帰ってきた。

「あれ、宅急便来たのか」
「う、うん」
「時間指定したはずなのに…」

健介は苦い顔をする。
それもそうだ。

だって中身は、高級そうな指輪だったのだから。

ちょっとの衝撃じゃ壊れそうにもない指輪。
驚いてしまってあまり詳しく覚えてないけど、とりあえずなんか光ってた。綺麗だった。
恐らく、軽い気持ちでプレゼントするものではない。
誕生日とか、クリスマスとか、記念日とか、そういうものにプレゼントする系のやつ。
で、私の誕生日も、クリスマスも、付き合い始めた記念日も、全部過ぎた。
どれもしばらくやってこない。
残された選択肢は、一つしかない。

ぷ…プロポーズしかない。

「あれ、なんか箱潰れてね」
「……」
「おい、聞いてんのか」
「え、あ、なに!?」

ぽーっと考えてて聞いてなかった。
健介に慌てて聞き返す。

「箱潰れてね?お前踏んだ?」
「ふ、踏んでないよ!あの…宅急便の人が、ちょっと箱潰れちゃったから、中身も壊れてたら連絡してくださいって言ってた」
「…ふーん」

咄嗟に嘘を吐く。
こう言っておけば大丈夫だろう。…多分。
健介が疑いの眼差しで私を見ているのは、きっと気のせいだ。

「とりあえず風呂入ってくるわ」
「どうぞー」

そう言って健介は宅急便の箱を棚に閉まって、お風呂場へ向かった。

…本当に、プロポーズなんだろうか。
いや、でもそれしか思いつかない。
年齢的にも、付き合いの長さからも、そういうことがおかしくない時期だ。

「……」

ぎゅっと枕を抱きしめた。
…そうだったらいいな、と思いながら。





あれから一週間。
健介があの指輪を私に差し出す気配はない。

「……」

これから渡すんだろうか。
それならいいけど、もしかして違う女に渡したとか。
いやいや!健介に限ってそんな!
…でも…。

「な、なんだよ。オレなんかしたか?」
「?」
「めっちゃ睨まれてんだけど」

そう言われて慌てて眉間に手を当てる
まずいまずい。皺になっちゃう。

「…なあ、お前なんか隠してねーか?」
「え?」
「この間から様子変」
「…ソンナコトナイヨ?」

あ、まずい。
カタコトになってしまった。

「……」
「な、なんでもないって」

健介は私を訝しげな目で見つめてくる。
う…。

「おい」
「……」
「…よし、実力行使だな」
「え、あ!」

健介は両手を私のほうに伸ばしてくる。

「ちょ、ちょっと待って!あはは!」
「喋るまでやめねーぞ」
「はは、ちょ、苦しい…っあはは!」

健介は思いっきり私の脇腹をくすぐってくる。
私はこれに弱い。笑ってしまって、息が苦しくなる。

「わ、わかった!言うから!」

叫ぶように言うと、健介はようやくくすぐるのをやめてくれた。
…たぶん、嘘吐いたらバレる。
そもそも私は嘘を吐くのが苦手だ。
先週だって絶対健介疑ってたし。
本当のこと、言おう…。

「…お、怒らないでね」
「保障出来ねえ」
「じゃあ、ショック受けないでね…」
「…何、そんなやばいこと?」

健介は真剣な表情になる。
やばい、というか、健介には少なからずショックなことだろう。

「別にそんなネガティブな話じゃなくて」
「もういい早く言えよ」
「え、えっとね…」

健介の前で正座をする。
下を見ながら話しだした。

「…先週、宅急便来たでしょ」
「ああ」
「…あれの中身ね、見ちゃった」

恐る恐る顔を上げると、健介は目を真ん丸にしてフリーズしている。
で、ですよね!そうなりますよね!

「え…」
「ご、ごめんなさい」
「ちょ、ちょっと待て!中身って、中身!?あれ!?」
「う、うん。箱潰れてるから中身一緒に確認してください〜って宅急便のお兄さんに言われて」
「はああ!?」

健介は一回立ち上がって、うなだれるように倒れこんだ。

「マジかよ…」
「…ごめんね」
「オレ超だせえ…」

健介はすっかり落ち込んでしまった。
当たり前だ。
そんな姿を見ると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「あー…もう…ほんと…」

なんて声を掛ければいいかわからず、ベッドに顔を埋める健介をじっと見つめる。

「…はあ」

健介は起き上がると、一つ息を吐いた。
そのまま立ち上がって、棚からこの間の箱を取り出す。

「…もうバレバレだと思うけど」

健介は私の前に座る。
真剣な表情だ。

「オレと結婚してほしい」

健介の言う通り、少しだけ予想していた。
でも、それでも、

「…はい…」

とても、嬉しい。
幸せな気持ちが、心の中に広がっていく。

「…本当は、来週末とかにどっかいいレストラン行ってとか考えたけど」

健介は私の指にあの指輪を嵌める。
ぴったりだ。
とても、綺麗。

「健介、あのね」

指輪を見つめながら、少し掠れた声で言う。

「サプライズじゃなくても、私、すっごく嬉しいよ」

そう言うと、健介は私を抱きしめた。

「…が、喜んでるなら、それでいいんだ」

ぎゅっと抱きしめられる。
本当に、先に見ちゃったの、どうでもいいの。
だって、今、こんなに幸せなんだから。











あんまりにも優しすぎて胸が疼く
14.07.15



10周年プロポーズ企画!




感想もらえるとやる気出ます!


タイトル配布元→capriccio