「今度高校の同窓会やるんだって。聞いてる?」 高校の同級生と食事しているとき、友人がそう聞いてきた。 「いや、聞いてない」 「あ、本当?私もちらっと聞いただけなんだけど…なんかバスケ部の人が幹事やるらしいって」 「あ、じゃあ宮地がなんか知ってるかな…」 バスケ部が幹事なら宮地が何か知っているかもしれない。 まだ頻繁にバスケ部の人たちと連絡を取っていたはずだ。 「……」 「なに?」 「…いや、あんたまだ『宮地』って呼んでんのね」 「あー…」 宮地清志は私の恋人だ。 高校のときからの付き合いだから、もう大分長い付き合いなんだけど、未だにお互い名字で呼びあっている。 いい大人が名字呼びってどうなんだろうと思わなくもない。 だけど、長い間こう呼んで来たし今さら呼び方を変えるというのは少し、いや、かなり恥ずかしい。 「あっちも私のことって呼ぶし」 「ま、あんたらがいいならいいけど」 「うーん…」 「で、同窓会やったら行く?私は行くつもりだけど」 「私もたぶん行くよ」 そう言いながらパスタをもう一口食べる。 …やっぱり、名字で呼ぶのは不自然なのかな。 * 「あー、楽しかった!」 「だな」 仕事が休みの日、宮地と一緒に遊園地に来た。 久々にはしゃぎ回って、楽しかった。 帰り道、周りに人がいないのをいいことに少し大きめの声で「楽しかった」と言ってみる。 「あ、そういえばさ、今度同窓会するらしいって聞いたんだけど」 「ああ、なんか大坪が言ってたな。来月ぐらいにやりてーっつってた」 「へー」 この間友人が話題に出してきたことを聞くと、やっぱり宮地は知っているみたいだ。 来月か…。 「宮地?」 来月なら特に予定ないし行けそうだな、なんて考えながら歩いていたら、宮地が突然足を止める。 「どうしたの?」 振り向いてみると、ずいぶん深刻な顔をしている。 さっきまであんなに楽しそうにしていたのに。 突然そんな表情を見せられると、怖い。 何か、悪い話だろうか。 「…」 「…な、何」 「名字で呼び合うの、やめねーか」 深刻な話かと思いきや、宮地から出てきたのはそんな言葉だった。 少し肩の力が抜ける。 「あ、なに。そんなこと」 「…」 「ま、まあいいんじゃない。確かに、この年で恥ずかしがるっていうのも変だし」 そうは言ってみるけど、やっぱりちょっと恥ずかしい。 恥ずかしいけど、嬉しい。 やっぱり恋人同士なんだから、名前で呼びたいという気持ちも、あるのだ。 「真面目な顔するから、深刻な話かと思うじゃない」 照れているのを知られたくなくて、軽く宮地を小突きながら言う。 そうしたら、その手を掴まれた。 「…深刻な話だよ」 「え…」 「…同じ」 宮地は真っ直ぐ私を見ながら、低い声で言う。 「同じ名字にならねーかってことだよ」 宮地の言葉に、顔に熱が集まっていくのを感じる。 だって、その意味は、 「あ、あの、えっと」 下を向いて赤い顔を隠す。 答えを言わなくちゃいけないのに、言葉にならないものしか出てこない。 私の答えは、一つしかないのに。 「…その…」 宮地は私の答えを待ってくれる。 なんだか、涙が出そうだ。 「…はい…」 やっとの思いで小さい声で呟いた。 顔を上げると、宮地の顔は暗がりでもわかるほど赤くて、優しかった。 「」 夜の街に、清志の優しい声だけが響いた。 * 「ー、久しぶりー!」 「久しぶり!」 今日は高校の同窓会だ。 頻繁に連絡を取っている子もいれば、卒業以来の子もいる。 「、宮地君と一緒に来たんだ」 「ん、まあね」 この間食事をした友人がそう言ってくる。 「おい、何飲む」 「あ、とりあえずビール」 清志に聞かれたのでそう答える。 横で友達が目を丸くしている。 「何、名前で呼ぶことにしたの?」 友達は小声で聞いてくる。 「実はね…」 やわらかく とけた 14.06.17 10周年記念のプロポーズ企画! ネタは友人に出していただきました ![]() 感想もらえるとやる気出ます! タイトル配布元→capriccio |