「今度高校の同窓会やるんだって。聞いてる?」

高校の同級生と食事しているとき、友人がそう聞いてきた。

「いや、聞いてない」
「あ、本当?私もちらっと聞いただけなんだけど…なんかバスケ部の人が幹事やるらしいって」
「あ、じゃあ宮地がなんか知ってるかな…」

バスケ部が幹事なら宮地が何か知っているかもしれない。
まだ頻繁にバスケ部の人たちと連絡を取っていたはずだ。

「……」
「なに?」
「…いや、あんたまだ『宮地』って呼んでんのね」
「あー…」

宮地清志は私の恋人だ。
高校のときからの付き合いだから、もう大分長い付き合いなんだけど、未だにお互い名字で呼びあっている。
いい大人が名字呼びってどうなんだろうと思わなくもない。
だけど、長い間こう呼んで来たし今さら呼び方を変えるというのは少し、いや、かなり恥ずかしい。

「あっちも私のことって呼ぶし」
「ま、あんたらがいいならいいけど」
「うーん…」
「で、同窓会やったら行く?私は行くつもりだけど」
「私もたぶん行くよ」

そう言いながらパスタをもう一口食べる。
…やっぱり、名字で呼ぶのは不自然なのかな。





「あー、楽しかった!」
「だな」

仕事が休みの日、宮地と一緒に遊園地に来た。
久々にはしゃぎ回って、楽しかった。
帰り道、周りに人がいないのをいいことに少し大きめの声で「楽しかった」と言ってみる。

「あ、そういえばさ、今度同窓会するらしいって聞いたんだけど」
「ああ、なんか大坪が言ってたな。来月ぐらいにやりてーっつってた」
「へー」

この間友人が話題に出してきたことを聞くと、やっぱり宮地は知っているみたいだ。
来月か…。

「宮地?」

来月なら特に予定ないし行けそうだな、なんて考えながら歩いていたら、宮地が突然足を止める。

「どうしたの?」

振り向いてみると、ずいぶん深刻な顔をしている。
さっきまであんなに楽しそうにしていたのに。
突然そんな表情を見せられると、怖い。
何か、悪い話だろうか。

「…
「…な、何」
「名字で呼び合うの、やめねーか」

深刻な話かと思いきや、宮地から出てきたのはそんな言葉だった。
少し肩の力が抜ける。

「あ、なに。そんなこと」
「…」
「ま、まあいいんじゃない。確かに、この年で恥ずかしがるっていうのも変だし」

そうは言ってみるけど、やっぱりちょっと恥ずかしい。
恥ずかしいけど、嬉しい。
やっぱり恋人同士なんだから、名前で呼びたいという気持ちも、あるのだ。

「真面目な顔するから、深刻な話かと思うじゃない」

照れているのを知られたくなくて、軽く宮地を小突きながら言う。
そうしたら、その手を掴まれた。

「…深刻な話だよ」
「え…」
「…同じ」

宮地は真っ直ぐ私を見ながら、低い声で言う。

「同じ名字にならねーかってことだよ」

宮地の言葉に、顔に熱が集まっていくのを感じる。
だって、その意味は、

「あ、あの、えっと」

下を向いて赤い顔を隠す。
答えを言わなくちゃいけないのに、言葉にならないものしか出てこない。
私の答えは、一つしかないのに。

「…その…」

宮地は私の答えを待ってくれる。
なんだか、涙が出そうだ。

「…はい…」

やっとの思いで小さい声で呟いた。
顔を上げると、宮地の顔は暗がりでもわかるほど赤くて、優しかった。



夜の街に、清志の優しい声だけが響いた。





ー、久しぶりー!」
「久しぶり!」

今日は高校の同窓会だ。
頻繁に連絡を取っている子もいれば、卒業以来の子もいる。

、宮地君と一緒に来たんだ」
「ん、まあね」

この間食事をした友人がそう言ってくる。

「おい、何飲む」
「あ、とりあえずビール」

清志に聞かれたのでそう答える。
横で友達が目を丸くしている。

「何、名前で呼ぶことにしたの?」

友達は小声で聞いてくる。

「実はね…」









やわらかく とけた
14.06.17

10周年記念のプロポーズ企画!
ネタは友人に出していただきました



感想もらえるとやる気出ます!


タイトル配布元→capriccio