今日は高尾くんとデートの予定だ。
身支度オッケー。玄関の鏡を確認して家を出る。
電車で10分の近くの町の駅で待ち合わせの予定だ。
ドキドキとわくわくと抱えながら電車を降りる。
改札に向かう途中、鞄の中で携帯が震えた。

高尾くんから電話だ。

「もしもし」
!マジごめん!部活長引いちまって!』

電話に出ると、高尾くんが焦った声でそう言った。

「そうなの?」
『ああ…もう駅だよな?』
「うん」
『本当悪ぃんだけどあと30分…いや、20分で行くから!喫茶店とかファミレスで待ってて!金オレ出すし!』
「いいよ、そんなの。待ち合わせ場所にベンチあるから、あそこで待ってるね」
『いやでも』
「いいってば!ほら、早く支度!」
『…っ、悪ぃ。マジ急いで行くから!』

そう言って高尾くんは電話を切る。
さて、と…どうしよう。
待ち合わせ場所のベンチに座ったけど、ちょっと気分が沈んでしまう。
部活だから仕方ないんだけど、なんだかお預けを食らった気分だ。
一応電車で暇つぶし用に本を持っているけど、なんだか読む気分になれない。
両手を膝の上に置いて、下を向く。
…高尾くん、早く来ないかな。


「ねー、彼女、一人?」

ベンチの隣に人の気配を感じて、顔を上げると大学生ぐらいの男の人が座っている。
私の方を向いているから、たぶん私に言っているんだろう。

「え…一人じゃないです。待ち合わせなので」
「えー、ずっと待ってんじゃん?待ちぼうけ?」
「!違います!」

ちょっと怒った口調で言うと、男の人は笑った。

「いいっていいって!振られたんでしょ?傷心ならぱーっと遊ぼうよ!いいとこいっぱい知ってるよ?」
「きゃっ」

男の人が肩を抱いてくるから、慌てて飛びのいた。
怖い。

「やーん!オレも傷心なんだけど慰めてくれる〜?」

突如降ってきたのは聞き馴染みのある声。
高尾くんの声だ。

「え」
「オレもさ〜先輩にめっちゃ怒られて傷心なの!慰めて〜」
「いや、寄ってくんなよ!」
「ひどい!私のことは遊びだったのね?!」

高尾くんは高い声で男の人に寄っていく。
男の人は完全にどん引きだ。

「うっせ!くそ…」

面倒なことになったと悟った男性は、早足でここから去っていった。
ほっと胸をなで下ろす。

「高尾くん、ありがとう」
「え?」
「助けてくれて」

そう言うと、高尾くんは体をしゃがみこませてうなだれる。

「そうじゃねーだろ!」
「え?…あ、ナンパされてごめんなさい…?」
「そっちでもねー!」

高尾くんは頭を抱える。
そっちでもないなら、高尾くんが怒る理由がわからない。
頭の上にクエスチョンマークを浮かべていると、高尾くんがオーバーなジェスチャー付きで話し出した。

「ふつう怒るでしょオレに!」
「え?なんで?」
「だってがナンパされたの一人で待ってたからだろ?んで、一人で待ってたのはオレが遅れたからじゃん?根本の原因全部オレじゃん?」
「…あ、そっか」

高尾くんの丁寧な説明に、ようやく納得する。
だけど、やっぱり怒る気にはなれない。

「でも遅れたの部活でだから怒るとこないし、それに高尾くん、助けてくれたもん。やっぱりありがとうだよ」

そう言うと、高尾くんは大きくため息を吐いた。

「…なんかオレの邪気が全部払われていく気がする?」
「邪気?」
「…いや、なんでもねえ…」

高尾くんは立ち上がると、私に手を差し出した。

「…怒ってねーかもしんねーけどさ、やっぱりオレの気済まないし、なんかお詫びさせてよ」
「お詫び?」

高尾くんの手を取りながら、立ち上がる。
お詫びかあ…。

「…じゃあね」
「うん」
「今日をとびきり楽しい一日にしてね」

デートの始まりが少し遅かった分、その埋め合わせをしてもらおう。
そう思って、彼の手をぎゅっと握った。

「了解、お姫様」

高尾くんは太陽みたいな顔で笑う。
やっぱり、申し訳なさそうにしているより、そんな顔が、好きだな。












ひまわり
14.12.02

りんさんリクエストのナンパから助けてくれる高尾でした!
ありがとうございましたー!





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