現代文の授業では、毎回授業の初めに漢字の小テストをする。
書き取りの問題が10問で10点満点。
時間になったら答案用紙を隣の席の人と交換して、先生が黒板に書いた答えを見ながら生徒同士で採点することになっている。

「はい」

私の隣の席は伊月君だ。
お互い答案用紙を交換する。

伊月君の字は綺麗だ。
同い年の男子はかなり崩して書く人が少なくない中、丁寧に大切に字を書いている感じがする。
伊月君の性格を表しているようで、彼の答案用紙を見るたびに嬉しくなる。

「はい、できたよ」
「ありがと。あー、一個間違えたか…。はい、さんの」

伊月君が採点してくれた私の答案を大事に見つめる。
文字だけじゃなく、丸の付け方も綺麗だ。
先生に提出してしまうのが惜しいな。







「はーい、じゃあ隣の席の人と交換してー」

先生の声で答案用紙から目を離す。
隣の人…伊月君は今日バスケ部の試合でお休みだ。

ー、三人で交換するか」
「うん」

前の人と右斜め前の人、三人で交換することにした。
当然、返ってきた答案は伊月君の字じゃない。
ちょっと、寂しいな。





さん」

次の日の朝、教室の席につくと伊月君が話しかけてきた。

「あのさ、昨日の授業のノート見せてくれない?」
「ノート?」

昨日、伊月君は部活の都合でお休みだった。
だから授業がどこまで進んだか確認したいんだろうけど、私でいいんだろうか。

「友達みんな字汚くてさ…」
「あはは、そっか」

昨日あった授業は現代文、数B、化学。
あとの授業は体育と選択科目だから貸すノートはこれだけのはずだ。

「はい」
「ありがと。昼休みまでには返すから」
「いいよ。数B以外はそんなに急がなくて」

数Bだけは午後に授業があるけど、ほかの科目は明日まで授業はない。
ゆっくり写してもらって大丈夫だ。

「そっか。ありがと」
「いいえ」

伊月君はさっそく数Bのノートを開く。
ノート、綺麗にとっておいてよかったと心の中で呟いた。






さん、昨日はありがと」

次の日の一時間目の前、伊月君がノートを返してくれる。

「これお礼」
「そんな、いいのに」

伊月君は飴玉をいくつかくれる。
そんなに気を遣わなくてもいいのに。

「飴はあめーな!」
「あはは」

伊月君の言うダジャレに笑うと、彼は驚いた顔をした。
首をかしげると伊月君は笑う。

「いや、えっと…さん、字綺麗だね。小テストのときから思ってたけど…ノートも綺麗に取ってるし」
「そうかな?ありがとう。伊月君の字も綺麗だよ」

字は一応丁寧に書いているけど、伊月君にそう言ってもらえると嬉しい。

「伊月君の字、なんだか丁寧で大切に書いている感じがして…伊月君の性格表してる気がして、私好きだよ 」

なんだか気分が浮ついて、私にしては饒舌に話す。
伊月君は少し頬を染めて、目を丸くして私を見ている。

「?伊月君?」
「あ、いや…その」
「…あっ!」

どうしたんだろう、変なこと言ったかなと思い、自分の発言を反芻してみて、とんでもないことに気付いた 。

「あの!好きって言ったのは、字、字だからね!?」

今の言い方では伊月君の性格が好きだと言っているみたいだ。
いや、性格も好き、なんだけど。
今言いたかったのはそこじゃなくて!

「あ、さん、大丈夫だから。慌てないで」
「うん…」
「あのさ…」

伊月君は依然頬を赤らめながら、視線を泳がせて口を開いた。

「オレもさんの字、好きだよ。優しくて、でもしっかりしてて、さんみたいで…」

慌てないでと言われたけど、伊月君の言葉に余計に心臓が脈打つ。
今の言葉は、私の都合のいいように考えていいんだろうか

「い、伊月君…」
「えっと…」

私も伊月君も、うまく話せない。
どうしよう、そう思っているとチャイムが教室に鳴り響いた。

「みんなー、席ついてー」

一時間目の現代文の先生が教室に入ってくる。
慌てて前を向いた。

「……」
「……」

横目で見える伊月君の顔は未だ赤い。
そして私も、同じだろう。

今日の漢字の小テストは、今までのような字が書ける自信がない。
きっと、緊張した字になってしまうだろう。
伊月君はどうだろう。
私と同じだったら、いいな。











一文字に込めたラブレター
14.11.04

アコさんリクエストの伊月先輩でした!
アコさんありがとうございました〜!




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