「……」

幼馴染の清志の部屋で一緒に勉強中。
一つの問題に手間取ってしまって、隣に座っている清志に教えてもらおうと話しかけた。

「ねえ、清志。ここわからないんだけど」
「あ?どこだ」

一応わからないところは教え合うと言って二人で勉強しているんだけど、実際は私が教えてもらってばかりだ。

「ここはな」

清志は私のノートにシャーペンで書きこんでいく。
乱暴な口調に丁寧な解説。
なんだかんだ、この人はいつも優しい。

「…おい、聞いてんのか」
「え、聞いてる聞いてる」
「んじゃこの問題解いてみろよ」
「……」
「聞いてねーじゃねーか!」
「き、聞いてます!ちょっと理解できなかっただけで!」

そう言い訳してみたけど、実際は半分聞いていなかった。
隣にある、清志の顔に見惚れてしまっていたから。
とはいえ、そんなこと言えるはずもない。

「あと一回だけしか言わねーぞ」
「はい」

苦い顔をしながらも、なんだかんだで丁寧に教えてくれる。
だから私は、この幼馴染が好きなんだ。






「おばさん、こんばんは」
ちゃん、こんばんは」

休日、おみやげを届けに清志の家に来た。
玄関には大きな靴が溢れてる。

「バスケ部の人たち来てるんですか?」

あの大きさの靴はおそらくバスケ部の面々だろう。
実際清志の部屋からはがやがやとした声が聞こえてくる。

「勉強会ですって」
「へえ」

あのにぎやかさで勉強できているんだろうか…と思いつつおばさんに持ってきたきりたんぽを渡す。

「ありがとう。おばあちゃん元気だった?」
「もー元気すぎて困っちゃいますよ」

おばさんと談笑していると、清志の部屋のドアが開いた。

「あれ、おまえ来てたのか」
「うん。勉強進んでる?」
「進まねーよあいつら騒ぎすぎだろ…」

清志はため息をつきながらテーブルの前の椅子に座る。
確かにドアの向こうからは勉強しているとは思えない声が響いてくる。

「あら電話」

廊下の方で電話が鳴る。
おばさんは電話を取るために小走りで出ていった。

「お茶飲む?」
「おー」

清志はテーブルの上のお煎餅を手に取ったので、しばらくここいいるつもりだろうと思ってそう声をかける。
急須を手にとって、お茶葉を入れる。

「すんませーん、トイレってどっちっスか?」

急須にお湯を入れて少し待っていると、清志の部屋から真ん中分けの男の子が出てくる。
前に試合を見に行ったときに見たことがある。
PGの選手だ。

「トイレあっちだよ」
「え、あ、そっすか」

彼は私を見て少し戸惑ったような声を出す。
なぜだろう、そう思いながら清志にお茶を渡した。

「はい、お茶」
「サンキュ」
「あ、宮地さんずりい!お菓子食ってる」
「うるせ」
「あ、食べる?」

彼におせんべいの入った小鉢を差し出す。
彼はずいぶんと驚いた顔をする。

「あー…っと、あの、宮地さんの妹さん…?」
「?いや、隣に住んでるの」
「はー…」

未だ驚いた顔をしながら彼はおせんべいを一枚手に取る。

「なんて顔してんだ」
「えっと…なんかすげー仲いいっつーか…」

清志に突っ込まれて彼はなんとなく居心地の悪そうな顔をする。

「なんつーか、熟年夫婦みたい」

彼の言葉に私は固まり、清志は飲んでいたお茶を吹き出した。

「な、はあ、はあああ!?」
「いやだってここ宮地さん家なのにお茶とか普通に淹れてるしトイレの場所教えてくれるしなんつーかもう家族?みたいな?」
「バカ言ってんじゃねーよ!轢くぞ!!」

清志は彼の頭を掴む。
私は固まったままだ。

「いたっ、宮地さんマジ痛い!!」
「うるせー!おとなしく勉強してろおめーは!」
「え!?トイレは!?」

清志は自分の部屋のドアを開けると、中に彼を放り込む。

「……」
「…おい、なにぼーっとしてんだ」
「痛っ」

清志にぺしっとチョップされた。
頭がちょっとジンジンする。

「いや、だって…」
「…その、あれだ」
「…?」
「高尾…さっきのあいつ、適当な奴だから気にすんな」

さっきの彼は高尾くんと言うようだ。
気にするなと言われても気にしてしまう…という感じだけど、あまり気にしすぎて気持ちがばれるのも恥ずかしい。

「うん。わかった」

さも「気にしてませんよ」と言った口調できっぱりと言ってみる。
内心ものすごく気にしてるけど。

そうしたら、清志が私の頭をひっぱたいてきた。

「痛っ!?」
「ちょっとは気にしろよ!」
「ええ!?」

清志はさっきと言ってることが真逆だ。
頭の上にクエスチョンマークを乗せて清志を見つめる。

「気にするなって言ったのそっちじゃん!」
「うるせ!まるで気にされないのもなんかムカつくんだよ!」
「な、なにそれ…」
「知らねーよ!」






「いてっ!」
「どうした高尾。また宮地怒らせたのか」
「いや、なんか宮地さんとすげー仲いい人がいて…」
「ああ、か」
な」
さんっつーんですか?なんか熟年夫婦みたいな雰囲気の」
「そうそう。あいつらもう夫婦みたいなんだよな」
「そう言ったらめっちゃ怒られて」
「言ってやるな。気づいてないのは本人たちだけだから」
「どっからどう見ても夫婦なんだけどな」
「な」









犬も食わない
14.09.10

ほうずきさんリクエストの宮地さん両想い幼馴染でした!
ありがとうございましたー!







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