可愛い彼の続きです 「ねえ、ちょっと買い物付き合ってくれない」 「はあ?」 花宮はあからさまに嫌そうな声を出す。 多分買い物と聞いて服や雑貨を買うと思ったのだろう。 「どこだよ」 「スポーツショップ」 「…お前が何買うんだ?」 「今度家族でスキー行くことになって。私だけまだ買えてないんだよね」 今度の冬休み、家族でスキー旅行に行くことになった。 家族一緒に必要なものは買いに行ったけど、私だけピンと来るものがなくて買えていないのだ。 「まさか板買うとか言うんじゃねーだろうな」 「まさか。そこはレンタルするよ。ゴーグルとかスキー用の靴下とかさ」 これから何度スキーに行くかわからないし、板やウェアなどはレンタルする予定だ。 細々したものを買いに行きたい。 「……」 花宮は少し考える様子を見せる。 服の買い物じゃ絶対ついてこないけど、スポーツ用品店なら花宮も行き損にはならない。 「…おい、行くんじゃねーのか」 花宮は勝手に歩き出すと、そんなことを言い放ってくる。 「付き合ってやる」の一言すら言わない。花宮らしいと言えばらしいけど。 * 「ここのは?」 「そこのメーカーは値段の割に質がよくねえ」 恐らく花宮がよく来ているであろうスポーツショップに着く。 気になった商品を見ては花宮に聞いてみると、ぽんぽんと評価が出てくる。 花宮と来たかった一番の理由はこれなのだ。 なんだかんだと詳しい。 「うーん…どれにしよう」 「これかこれ。どっちも値段相応」 迷っていると花宮に二つのメーカーを推される。 お高めのものと財布に優しいもの二つ。 どっちも値段相応ということは、安いほうはあまり出来がよくないんだろう。 「…じゃ、こっちにしようかな」 「そ。とっとと買って来いよ」 花宮はスタスタとバスケット関連の商品を扱う棚のほうに歩いて行った。 私が会計を終えるまで暇をつぶすのか、それとも最初からお目当ての商品があったのか。 待たせるとうるさいので、足早にレジに向かった。 * 「…あー…」 レジは結構並んでる。 これは時間かかるな。溜め息を吐きながら列の最後尾に並ぼうとすると、私が並ぶ直前横から背の高い男の人が並んできた。 「あ」 その人の顔を見て声を出してしまう。 男の人はきょとんとした顔で私を見下ろしてきた。 「あ、すみません。オレ割り込みしちゃいましたか?」 「あ、違うんです」 彼が並んだのは私が並ぶ前だから割り込まれたわけじゃない。 声を出してしまったのは、ただ彼が見知った人間だからだ。 「…ああ!あのときの!」 彼も私のことを思い出したようで、ぽんと手を叩く。 前に彼と会ったのは、花宮と待ち合わせをしているときだ。 そのときのことを思い出して、しまったと思い返す。 そういえば花宮は彼の顔を見て随分と不機嫌になったはずだ。 背の高い彼は目立つ。 花宮は彼を見つけてしまうだろう。 「スキー行くんですか?」 「ええ、まあ…」 「へえ〜いいですね!花宮と行くんですか?」 「えっ」 花宮の名前が出ると思わず、素っ頓狂な声をあげてしまう。 さすがに高校生同士でスキー旅行はないだろう。 「なんで花宮が…」 「え?だって付き合ってるんでしょう?」 彼は小首を傾げている。 私は柄にもなく顔を赤くさせた。 「…ま、まあ」 こういうこと、あまり言われないから照れてしまう。 ふいと顔を背けると、視界にとんでもないものが飛び込んできた。 「……あ……」 そこには貼り付けたような笑顔をしている花宮が立っている。 この作った笑顔が、不機嫌な顔よりなにより怖い。 「…何してるのかな?」 「…世間話?」 斜め上を見ながらそう言う。 まったくの世間話だ。 やましいことは何もない。 「へえ」 笑いながら花宮は私の腕を掴む。 あ、これこのまま連れてかれるパターン。 私はすぐにそう感じた。 「おい、花宮、そんなに強く掴んじゃ可哀想だろ?」 「ああ?」 「ちゃんと大切にしないと愛想尽かされるぞ?」 ニコニコと笑いながら言う彼に対し、花宮の貼りついた笑顔が消えた。 「…んだよ」 「きゃっ!?」 花宮はぐいと私の腕を引っ張ってレジの列から抜けさせる。 私は慌ててお店から出る途中ゴーグルをその辺の棚に戻した。 ゴーグルが置いてあった棚じゃないけど、万引き犯扱いされるわけにはいかない。 「ちょ、ちょっと花宮」 花宮はずんずんと歩いて行ってしまう。 もう、なんなのよ。 確かに彼は花宮が嫌いそうな人種ではあるけど、そこまで嫌がらなくても…。 「ちょっと、痛いんだけど」 強く掴まれた手が痛い。 そう伝えると、花宮は少し驚いた顔をした。 「……」 花宮はいったん手を離すと、優しく握りなおす。 柄じゃないことをされて、目を丸くしてしまう。 「な、なに…」 なんだか照れくさくてふいと顔を背ける。 少しの沈黙の後、あ、と思い至った。 「…ふふ」 「何笑ってんだよ」 突然笑い出した私に花宮は訝しげな視線を向ける。 「…別に、今さらこのぐらいで愛想尽かしたりしないわよ」 今さら、ちょっと痛いぐらい強く腕を握られたぐらいで嫌いになるはずもない。 そんなこと気にするなら、普段から優しくしてくれればいいのに…と思うけど、そんなのは花宮じゃない。 「…なんの話だよ」 「別に?」 花宮はふいと顔を背ける。 可愛いやつ…と思ったけど、心の中にしまっておくことにした。 可愛い人 14.11.24 アオイさんリクエストの木吉とスポーツショップでばったり話でした! ありがとうございましたー! 感想もらえるとやる気出ます! |