っち〜!」

ああ、今日もまた来た。
隣のクラスの黄瀬涼太。
二週間ほど前から、つきまとわ…もとい、アタックされている。

「興味ない」
「早っ!話だけでも!」
「…今日は何?」

はあ、とため息を吐きながら黄瀬のほうを見る。

「来週末うち練習試合やるんスけど応援に来てくれないっスかね?」
「バスケ、興味ないから」
「見てみたら面白いかもしんないっスよ!うちの体育館でやるから!ね!」
「行きません」

もう一度ため息を吐く。
先日からこういうことばかり言われてる。
最初はストレートに「デートしよう」だった。
それを「興味ないから」と断ったら、どうやら彼のプライドに障ったようで(彼曰く「女の子にフラれたことがなかった」らしい)、リベンジとばかりに誘われ続けてる。

「ちょっとだけ!ちょっとだけでいいから!」
「嫌です」
「え〜…」

黄瀬のうなだれる声とともに、昼休み終了を知らせるチャイムが響く。
最近、お弁当を食べ終わったころを見計らってこうやって黄瀬がくるものだから、友達とおしゃべりを楽しむこともできない。
まったく、傍迷惑な話だ。






っちー!」
「…今日は何?」
「今日の放課後カラオケ行かないっスかー?っち歌うまいって聞いて!」

誰に聞いたんだ、誰に。
というかそもそも歌うまくない。音痴でもないと思うけど。

「行かない」
「えー…」
「行かない」
「……」





っちー!」
「…今日は何?」
「中華街行かないっスか?オレおごるし」
「中華に興味ないから」
「食べなくても雰囲気だけでも!」
「雰囲気にも興味ない」





っちー!」
「…今日は何?」
「動物園行かないっスか!?モルモットのふれあいコーナーとかやってるっスよ!」
「…モルモット…」
「あ、もしかしてモルモット好き?」
「…いや、行かない」





っちー!」
「今日は何?」
「映画!試写会のチケットが手に入って!」
「…あんたこの映画見たら寝るんじゃない?」
「う…」
「自分が寝るような映画誘うんじゃないわよ」






「黄瀬もめげないねえ」

帰り道、一緒に帰っている友人がぽつりと呟く。

「もう三週間ぐらいじゃない?」
「うん」
「黄瀬ファンから恨まれたりしない?大丈夫?」
「そこは特に…それより黄瀬本人が面倒」
「そんな頑なにならなくてもよくない?別に付き合おうってわけじゃないんだし。一回ぐらいイケメンと記念デート〜って感じで」
「いいよ、そんなの」

それはよく言われることだ。
あんなかっこいい人に誘われて、彼氏もいないのにどうして断るの?って。

「今はそういうの興味ないの」
「ふーん。なんかもったいない気がするけど」
「もったいなかろうと結構です」

そう言って分かれ道になったので友人と別れる。
…あの子は高校からの友達だから、私の前の彼氏のことを知らないんだろう。
もとより言うつもりもないけれど。

中学時代、好きだった人、人気者でファンクラブがあるような人、
彼に告白して、付き合えることになって、有頂天だったあの頃。
それが一転したのは中学卒業直前。
彼が浮気していることが発覚して、そのまま私の初恋は終わった。
恋愛ごとはもうたくさんだ。
なにより、誰もが振り返るような黄瀬なんて。






「あれ?っち」

放課後、教室で日誌を書いていたら、黄瀬が入ってきた。
放課後にくるなんて珍しい。

「珍しいね」
「いやー。今日はお昼ミーティングでこれなかったから、放課後会えないかなーってダメもとで」

黄瀬は空いている私の前の席に座る。

「ね、っち。今度おもしろそうな映画が」
「ねえ黄瀬、なんで私にこだわるの?」

ずっと聞きたかったことをぶつけてみる。
昨日友達が言ったとおり、黄瀬のファンは大勢いる。
デートがしたければ、私にこだわらなくたって黄瀬ならよりどりみどりのはずだ。
はっきり言って、もう断るのも面倒なのだ。

「そんなに断られたのが悔しい?」
「んー…正直に言うと最初はそういう理由だったんスけど」

黄瀬は笑いながらも、真剣な声で答える。

「ホント最初は軽い気持ちだったんスけどね。断られてムキになって…でもっちのことよくみたら、すげえいいなって思うようになったんスよ。オレにはあんまり見せてくんないけど、笑った顔が可愛いし。だからこう見えて今は本気なんスよ?」
「……」
「だからもう絶対あきらめないっスよ?もしっちに彼氏できたら略奪愛するぐらいの覚悟なんで!」

黄瀬は軽い口調で言うけど、声色は今まで聞いたことないぐらい真剣だ。
もう、だから面倒なんだ。
今までだって、時が経つほど、彼のまっすぐな瞳を見るほど、断れないと思うようになったのに。
彼の誘いを断りたくないと思うようになっていたのに、もうこれで、私は拒絶の言葉を紡げないじゃないか。

「…黄瀬」
「なんスか?」
「…浮気しない?」

うつむいて、一つだけ話す。
絞り出すようにでた言葉が、それだった。

「しない!するわけないっス!」
「…だったら」
「……」

黄瀬は期待の面持ちで私を見る。

「…いいよ」
「やったー!」

明るい笑顔で、ぎゅっと私を抱きしめる。
少し苦しいぐらいに。

「…浮気したら切るから」
「何を!?」












君に夢中
14.11.04

夏月さんリクエストの黄瀬でした!
夏月さんありがとうございました〜!







感想もらえるとやる気出ます!