昼休み、今日はいつも一緒にお弁当を食べている友達が風邪で学校を休んでいたり、委員会だったりで一緒にお昼を食べられなかった。
一人で昼食をとった後、屋上まで来た。
本を読むためだ。

「…この辺りかな」

今日は天気がいいため、日差しが強い。
陰になる場所を探すと、ちょうど給水塔の後ろを見つけた。
ここなら眩しくないだろう。
腰を下ろして本を開いた。

「……」
「みーっけ」
「!」

読み始めて数分。
集中していると、上から声が降ってきた。

「あれ、ワリ。読書中?」
「別にいいよ」

声をかけてきたのは恋人の高尾だ。
おそらく私の友達が全員お昼にいないことを心配して来てくれたんだろう。

「いや、読んでてもいーよ」
「いいよ。いつでも読めるし」

栞を挟んで、本を鞄にしまった。
本は本で楽しいけど、彼とのおしゃべりだって楽しいものだ。

「飯、一人で食ったの?」
「うん」
「わー、さすが…」
「高尾一人でご飯食べれないタイプ?」
「いや、平気だけど。女子は結構嫌がんね?」

そんな話をしていると、屋上のドアが開く音がする。
給水塔の陰からのぞくと、クラスメイトの男子たちだ。
入り口からここは見えないので、たぶん私たちには気付いていないだろう。

「あー、彼女ほし〜。お前女の知り合い多いだろ?紹介してくれよ」
「いねーよそんなに。つーかそもそもどんなのがいいの?」

いきなり始まった会話は異性の話題。
これ、もしかしなくても私は聞いてはいけない話題なのではと思うけど、この場から去るためには入り口前に陣取っている彼らの前を通らなくてはいけない。

「オレ大人っぽい方が好き」
「あー、みたいな?」

まさかの自分の名前に、さすがに動揺を隠せない。
私より彼らに近いところにいる高尾は、顔を彼らに向けてしまっているのでなにを思っているか見えない。

「いやー…はちょっと。あいつ怖くね?」
「あー、確かに」
「綺麗目の顔だけどさー、なんか無表情で虫とか殺しそう。オレはもっと可憐で包み込んでくれる系のお姉さんが」
「お前女に夢見すぎだって!」

怖くて悪かったな。そもそも私だってあんたなんか包み込みたくもないわ。
そう心の中で悪態をつく。
とはいえ、彼らの言わんとすることもわかる。
あまり感情を表に出さないなほうだと思うし、実際無表情で虫殺すし。
怖いと思われても仕方ない。
ただのクラスメイトの彼らにそう言われたところで、ちょっとイラッとはくるけど、おそらく10分後には忘れているような出来事だ。
それよりも、隣の高尾がどう思っているのかが気になってしまう。
彼女のことをこう言われて、憤慨しているのが、同調しているのか、呆れているのか。

「あ、予鈴」
「もうかよ〜戻るか」

予鈴のチャイムが鳴る。
あと五分で五時間目の授業が始まる。
彼らが屋上から出ていったのを確かめて、私たちも立ち上がった。

「……」
「いやー、あいつらムカつくなー」

高尾は怒っていると言いつつ、あっけらかんとした口調で話す。

「怒ってるの?」
「そりゃ彼女をあんな風に言われたらね?さすがのオレだってイラッときますわ」
「怒らなくていいよ、気にしてないから」

彼の怒りを収めようと、淡々とした口調で言った。
そうしたら高尾は笑い出す。

「やっぱり?だからオレも出ていかなかったんだけど」
「そうなの?」
「気にしてんだったら『ふざけんじゃねー!』って言いにいったんだけどさ。気にしてねーのにそんなことしたらオレちょっとピエロじゃん」

高尾の言葉にふっと笑みがこぼれる。
そうしたら、高尾がきっと指をさしてきた。

「え、なに」
「その顔!」
「?」
「そんな可愛く笑うのに、なにが怖いんだろーなあいつら」

可愛いという単語に頬が熱くなる。
高尾はそんな私を見てまた笑う。

「ま、可愛い顔見られるのも照れた顔見られるのも彼氏の特権?」
「…バカ」
「ちょっとした優越感は感じるけどね」

私が気にならない一番の理由はそれなんだ。
高尾が、こんな私を可愛いと言ってくれるから。
だから、外野の声なんてどうでもよくなるんだよ。









君の声だけ
14.11.21

ゆきさんリクエストの大人でクール、照れ屋な美人さんと高尾の話でした!
ハッピーバースデー高尾!


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