「……うーん」 朝、顔を洗って鏡を見上げれば、おでこにぽつんと大きなニキビができている。 かなり目立つタイプのニキビだ。 コンシーラーで隠したいところだけど、生憎うちの学校は化粧全般禁止されている。 「…仕方ない」 前髪を整えて、ニキビを隠した。 この髪型なら見えないはず。 * 電車通学の私は駅のホームに立って電車を待つ。 今日は日直なので早めに登校しなくてはいけない。 ラッシュ前なので、いつものように人ごみにもみくちゃにされなくてありがたい。 待っていた電車が来る。 一歩電車に入ると、見慣れた顔がドアのすぐそばの座席に座っていた。 「花宮、おはよ」 花宮は私の声に反応して読んでいた本から目を離す。 一番空いている10号車、その車両の端の座席にいつも花宮は座っている。 「…早いな」 「日直だから」 「ふうん」 花宮は満員電車は好きではないらしく、いつもラッシュ前の空いてる時間を選んで、早めの時間に登校している。 花宮に合わせて早起きして電車に乗る…なんて殊勝な真似はしないけど、日直や委員会の用事で早く家を出るときはこの電車に乗るようにしている。 「……」 花宮の隣に座るけど、花宮は本を読み続ける。 別にそれでいい。 一応恋人同士という関係ではあるけど、私も花宮も仲良くお喋りするようなタイプではない。 「……」 鞄から鏡を取り出した。 前髪は…うん、大丈夫。 「…お前さあ」 花宮はいつの間にか本を閉じて私のほうを向いている。 訝しげな視線だ。 「…なんか」 「なに?」 「…いや…」 そう言うと花宮はマジマジ私を見る。 …まさか、ニキビ気付かれてないよね? 「…ああ、前髪が違うのか」 「!」 花宮は私の雰囲気がいつもと違うことを気にしていたらしい。 まさかほんの少し髪型が変わったことに気付かれるとは思わず、目を丸くした。 「…よく気付いたね」 「別に」 「髪型変えたのに彼氏が気付いてくれなくて寂しい!」なんて声をときたま聴くけど、そういうのが割とどうでもいい自分には縁のないものだと思ってた。 …でも、気付かれるとやっぱり嬉しい。 「なに、寝癖でもついてんのか」 花宮がからかうように私の前髪を引っ張る。 慌てて手を払おうとするけどもう遅い。 多分、いや、絶対ニキビ見えた。 「!」 ぱっと自分のおでこを抑える。 今度は花宮が目を丸くする。 「…見た?」 「なにを」 「あ、見てないならいい」 「なんだよ、落書きでもしてんのか」 「小学生じゃないんだからそんな落書きする人いないわよ」 「じゃあなんだよ」 「……」 私の沈黙という答えに、花宮は不満そうな顔をする。 刺すような視線が痛い。 「あ、ちょっ!」 花宮は無理矢理おでこから私の腕をはがすと、抑えていた場所を見つめた。 自分の顔が赤くなるのを感じた。 「…?あ、これか」 少し間を置いたあと、花宮がようやく気付いたようで私のニキビに触れた。 「ちょ、触んないで」 「潰してやろうか」 「……」 やめてと言えば花宮の性格上喜ぶ。 なので口を閉じてジト目で見つめた。 「やんねーよ、面白くもねえ」 花宮はバカにしたような笑いとともにそう言い放つ。 ふうと安堵の息を吐いた。 潰されて痕が残ったら困る。 「つーか別に隠すほどじゃねえだろ」 花宮はマジマジと私のおでこを見つめながら言う。 男子にとってはそうでも、女子はそうはいかない。 できれば隠したいものだ。 「……」 「……?」 花宮はじっと私を見つめる。 もう視線は私の額ではなく、私の目に移動している。 自然と目が合う形になる。 「……」 花宮の顔が少し近付く。 ドクンと、心臓が跳ねた。 「!!」 ガタンと音を立てて電車が止まる。 慌てて外を見るけど、駅ではない。 どうやら信号で止まったようだ。 「…何間抜け顔してんだよ」 花宮はそう言って、ふいと顔を背けた。 その顔に少し照れの色が指していたのを私は見逃さなかった。 唇に花 14.11.24 アオイさんリクエストニキビを気にするヒロインでした〜 ありがとうございました! 感想もらえるとやる気出ます! 配布元→capriccio |