「火神君、どうしたんですか?」

教室の自分の席で昼飯を食ってる時、前の席の黒子が心配そうな声で聞いてきた。

「突然なんだよ」
「なんだか表情があまり明るくないようなので」

ぐ…と喉を詰まらせる。
まあ、自分でもわかりやすいほうだって自覚はあるし、何より人間観察が趣味だなんてのたまう黒子が相手 だ。
わかるのは当然だろう。

「最近調子悪ぃんだよな…」
「体の調子ですが?今日もたくさん食べているようですが」
「いや、体は悪くねえ」
「じゃあバスケの調子ですか?」
「そっちも順調」
「ですよね。愚問でした」

風邪を引くどころか体の調子はすこぶる順調。
おかげでバスケのほうも好調だ。

「なんか…なんなんだろうな〜」

うまくいけないけど、調子が悪い。
なんつーんだ…敢えて言うなら、心の調子とでもいうのか。

「火神君、そんな繊細だったんですか」
「おい黒子てめえ!」
「冗談です。ボクでよければ話を聞きますが」

早々に昼食を終えた黒子がそう聞いてくる。
…まあ、ほかに相談する相手もいねえしな…。

「なんかこう…胸が痛ぇっつーか」
「それは体の調子が悪いのでは」
「いや、そうじゃねーんだよな。なんていうんだろな…」

うんうん唸っていると、黒子は少し考え事をする顔をした。

「…今は痛いですか」
「いや、別に」
「……」

黒子はオレをじっと見つめる。
真っ直ぐな目に少したじろぐ。

「……」
「な、なんだよ」
「…さん」
「っ!?」

黒子の口から出てきたのは、クラスメイトのの名前。
突然のことに、食べていたパンを喉に詰まらせそうになる。

「な、なんで突然の名前が出てくんだ!?」
「ああ、もういいです。火神君が不調な理由がわかりました」
「マジかよ!?」

思わず身を乗り出す。
やっとこの不調の理由がわかるのか。

「なんでだ!?」
「恋ですね」
「は…っ」

こ、恋!?

「な、何言ってんだ!?」
「だから火神君はさんのことが好きだってことです」

ぼっと自分の顔が赤くなるのを感じる。
す、好き…!?

「ちょ、ちょっと待て」
「別に急かしてません」

オレが、を、好き…?
いやいや、ちょっと待てよ。
確かにとはよく話したりしてるけど、好きって、えーと、ほら、あれだろ…?

「火神君、黒子君」
「うおおおおあ!?」

パン片手に悶々と考えていたら、噂をすればなんとやら、が話しかけてきた。

「ご、ごめん。驚かせちゃった?」
「いや、別に…」

盛大に声を上げてしまった。
おかげではちょっと後ずさりしてる。
…つーか今の話聞かれてねーよな!?

「い、いつからそこに…?」
「?今さっき」

ほっと息を吐く。
どうやら肝心な部分は聞かれていなかったようだ。

「あの、昨日二人ともバスケ部の試合で学校休んだでしょ?」
「はい」
「それがどうかしたのか?」
「うん、現代文の授業でね、課題が出たの。私日直だったからプリント渡せって言われて」

昨日、部活の試合があって学校を一日休んだ。
公休だから成績には影響しないけど、授業の穴埋めとして課題が出ることがあるとは聞いていた。
はオレと黒子にプリントを一枚ずつ渡す。

「私たち授業中にやったんだけど…二人は来週の授業までに提出しろだって」
「そうですか。わざわざありがとうございます。…火神君?」

と黒子の会話を横で聞きながらプリントを凝視する。
なんだこれ…全然わかんねーぞ!?

「火神君、どうしたの?」
「彼は国語が苦手だから、フリーズしているんでしょう」
「あ、そっか…アメリカにずっといたんだもんね?」

来週…今日は金曜。来週の現代文の授業は確か火曜。
やべえ…できる気がしねえぞ…。

「火神君、大丈夫…?」
「……」
「…火神君、できそうにないならさんに教えてもらったらいかがでしょう?なんなら今から」

黒子の言葉にハッと我に帰る。
なななななに言ってんだ!?

「はあっ!?」

素っ頓狂な声を出すと黒子が肘で小突いてきた。

(火神君、いくら朴念仁な君でも今の意味ぐらいわかるでしょう)

「ぼくねんじん」の意味はよくわかんねーけど、黒子の言いたいことはなんとなくわかった。
つまり、協力してくれるってことだろう。

「どうでしょう、さん」
「別にかまわないけど…あ、黒子君もやる?」
「ボクは大丈夫です。現代文は得意ですし」
「そう?」
「ボクの席貸しますのでどうぞ。ボクは図書室に行ってきます」
「ありがと」

は黒子の席、つまりオレの後ろの席に座る。
とりあえず慌てて残りのパンをかっこんだ。

「あ、そんな慌てなくても…」
「い、いや、いい」

いざを前にすると、胸が痛くなる。
さっき、黒子に話した感覚は、間違いなくこれだ。

「えっと…じゃあ、やろっか」
「お、おう」
「火神君、漢字苦手なんだっけ?」
「ああ…まず読めねーんだよな」
「そっか…漫画読むといいよ」
「漫画?」

いつも「漢字が読めない」というと本を読め新聞を読めと言われるので、まさか漫画が出てくるとは思わず 目を丸くする。

「うん。本や新聞ってふつう漢字にふりがなついてないでしょ?漫画はついてるから、漢字の読み方覚える にはうってつけなんだよ」
「へえー…」
「漫画なら火神君も読みやすいでしょ?楽しんで勉強できて一石二鳥だよ」

はニコッと笑ってみせる。
なんだか気恥ずかしくて、視線をプリントに向けた。

「?火神君?」
「え、えーと…とりあえず一問目だな」
「うん。わからない漢字あったら聞いてね」
「おう」

えーと…一問目は…このときのKの心情を答えなさい?

「…ムカつく?」
「火神君の感想じゃなくて!ちゃんと文章中に書いてあるから」
「う、うーん?」

は文章を指さす。
細い指だ。

「こういうとこから読みとってくの。現代文はだいたい文章中に答えが載ってるから」
「……」

の手はずいぶんと小さい。
小さくて、白くて、なんつーんだ、その…。

「…火神君、聞いてる?」
「えっ?!ああ聞いてる聞いてる!」

ちゃんと聞いてたぞ!
の手握ってみたいとか思ってねーからな!

「…ほんとに?」
「ほ、ホントだって」

は訝しげな目でオレを見つめてくる。
さっきまで笑っていたのに、表情がころころ変わる。
見ていて飽きない、というか、見とれてしまう。

「…もう。次よそ見したら本当に怒るよ?」
「わ、わかってるって」

そう言われてもう一度プリントとにらめっこする。
ときどき視界に入るの表情にドキドキする。

ああ、さっき黒子の言ってた意味が分かった気がする。
の表情に目が離せなかったり、手握ってみたいとか、触れたいって思ったりとか。
これが、好きってことなのか。










好きということ
14.09.23

カンナさんリクエストの火神恋心自覚話でした!
ありがとうございましたー!





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