季節は11月。
肌寒くなり始めた今日この頃。
秋田では早くも雪が降り始めていた。
「寒…っ」
秋田はとにかく寒い。
しかも今年は雪が降るのが早く、例年より寒さが厳しくなっている。
「、おはよう」
「氷室、おはよ」
学校までの道のりを歩いていると、同じクラスの氷室に会った。
「私たち今日日直だね。氷室は放課後部活あるの?」
「いや、今日はオフ」
「そっか」
バスケ部は強豪なので、委員会や日直があっても放課後まっすぐ部活に行くことが多い。
その代わり放課後以外にできる仕事をやってもらうのが慣例になっているのだけど、今日は部活ないのか。
「何か頼まれたらオレも一緒にやるよ」
「ありがと」
日直なんて面倒だけど、氷室と一緒となると話は別だ。
普段なら何も頼まれないといいなと思っているけど、今回ばかりは期待してしまう。
*
「氷室、ー」
昼休み、教室でお昼を食べていると、担任の先生が私を氷室を呼んだ。
「今日さ、図書準備室の蔵書チェックしてほしいんだけど」
「蔵書?」
「ああ。貸し出ししてないのにない本がないかのチェック。準備室だけならそんなに数はないから」
どうやら図書委員は総出で図書室のほうをチェックするらしい。
担任の先生は図書の担当だし、私たちに白羽の矢が立ったようだ。
「私は別にいいですよ」
別に、なんて言い方をしたけど大歓迎だ。
氷室と一緒にいられる時間が増えると思うと胸が弾む。
「オレも大丈夫です。今日は部活ありませんから」
「そうか?悪いけどよろしくな」
*
「じゃ、始めよっか」
放課後、先生からもらった本のリストを持って図書準備室へ。
準備室は地下にある。
暖房は効いているけど、ちょっと肌寒く感じる。
「このくらいならすぐ終わるかな」
準備室自体はそれなりに広いけど、備品が大半で本はあまりない。
すぐ終わるの寂しいな、なんて。
「じゃあ、はそっちの棚からよろしく」
「うん」
氷室と反対側の本棚の前へ。
本のラベルに貼ってある番号を一つ一つ確認して、リストにチェックを入れていく。
・・・
「…これで終わりかな?」
「そうだね。案外早かったな」
氷室と二人でリストを確かめる。
どうやら貸出している本以外はすべて揃っているようだ。
「先生に提出してこようか」
「うん」
先生にこの報告をしたら日直の仕事は終わり。
この時間が終わってしまうのは惜しいな、と思う。
「…あれ」
「?」
氷室は引き戸に手をかけると、表情を曇らせた。
「どうしたの?」
「ドアが開かないんだ」
「え!?」
慌てて私もドアを開けようとする。
バスケ部の氷室が開かないんだから当然だけど、私がやっても開かない。
「あ、ちょっと持ち上げてみたりとか…」
よく立てつけの悪いドアはこうやると開く気がする。
少し持ちあげて、引いてみる。
「……」
「ダメだね…」
「うん…」
ドアはガタガタと音を立てるだけで動かない。
うーん…。
「携帯通じるかな」
氷室はポケットから携帯を取り出す。
「電波ある?」
「辛うじて」
うちの学校は全体的に電波が弱い上にここは地下だ。
通じるんだろうか。
「もしもし?」
氷室は誰かに電話をかけているみたいだ。
「もしもし?…だめだな」
「通じない?」
「電話はできるんだけど、あっちの声が聞こえない。メールも…だめだな。ずっと送信中だ」
「そっか…」
不安がよぎって、ぎゅっと自分のカーディガンの裾を握った。
「、大丈夫だよ」
「え?」
「少なくとも先生はオレたちがここにいるのわかってるんだから、いつまでも来なかったら探しに来てくれるはずさ」
「あ、そっか」
確かに氷室の言う通りだ。
ほっと安堵の息を吐く。
「座ったら?」
「うん。ありがとう」
氷室は椅子を引いてくれる。
氷室も私の隣に座った。
「……」
あれ。もしかして、もしかしなくても、今私たち密室で二人きりなのか。
唐突に恥ずかしくなってきた。
「?どうしたの?」
「えっ、あ、えーっと、こ、この部屋ちょっと寒いね」
「そうかな?じゃあこれ着なよ」
氷室はカーディガンを脱いで私に渡してくる。
少し寒いというのは本当だけど、ちょっとした話のタネのつもりだったのに。
「いいよ!氷室が寒くなっちゃう」
「オレは大丈夫だよ」
「でも」
「」
氷室は少し強い口調で、私の言葉を遮る。
「こういうときは、遠慮されるより素直に受け取ってくれたほうが嬉しいんだ」
そう言われると何も言えなくなってしまう。
氷室のカーディガンを受け取った。
「…ありがとう」
「どういたしまして」
氷室のカーディガンを羽織ると、ぬくもりが伝わってくる。
さっきまでこれを氷室が来ていたんだと思うとどんどん頬が熱くなってくる。
「顔赤いよ」
「え」
「大丈夫?」
氷室は私の額に手を当てる。
急激に熱が集まるのを感じる。
「ひ、氷室」
「寒いって言ってたし風邪?」
絶対に風邪ではない。
私が一番よく分かってる。
「氷室、あの、大丈夫だから」
「そう?」
「う、うん。本当に」
顔が赤いのはあなたのせいです、なんて言えるはずもない。
「え、えーっと…運ないね、私たち」
話題を逸らしたくて、無理矢理言葉を捻り出す。
「そう?」
「うん、ほら…日直って全然仕事ないときもあるのに頼まれるし、しかもドアも開かなくなっちゃうし」
まあ、私としてはラッキーなんだけど。
閉じ込められたときはちょっと怖かったけど、先生もすぐ来るだろうからもう怖くはない。
ドキドキし過ぎて胸が痛いけど、氷室と一緒にいられるのはやっぱりうれしい。
「オレはラッキーだけど」
「え?」
氷室からは予想外の言葉が返ってくる。
今のは、私の心の声が出ちゃった?あれ?
「と二人きりの時間が増えるのは、うれしいよ」
氷室はまっすぐ、優しい目で私を見ながら言う。
心臓の鼓動が、氷室に聞こえるんじゃないかと言うぐらいらい鳴っている。
「」
氷室が私の名前を呼んで、何か言おうと口を開く。
その瞬間。
「おーい、、氷室ー!いるかー!?」
「!!!」
ドアの向こうから先生の声が聞こえてくる。
はっとドアの方を振り向いた。
「は、はい。います!」
そう答えると、ドアががたがたと音を立てて開いた。
ドアの向こうには、先生が笑いながら立っていた。
「悪い悪い!ここのドア立てつけ悪いから完全に閉めるなって言い忘れてたわ!」
先生は豪快に笑いながら部屋に入ってくる。
だけど、今は先生より、さっきの氷室の言葉が気になって仕方ない。
「どうだった?全部そろってたか?」
「はい。貸し出し中の以外は全部ありました」
「そうか。悪かったな!」
先生は「気を付けて帰れよー!」と言って図書室のほうへ去っていく。
また、氷室と二人きりだ。
「」
「は、はい」
緊張のあまり噛んでしまう。
氷室は優しい笑顔を私に向けている。
「一緒に帰ろう。送っていくよ」
「えっ、あ、でも」
「さっきの話の続きがしたいんだ」
その言葉でまた顔が赤くなる。
多分、今日、心臓持たない。
恋のときめき
14.09.28
葵さんリクエストの氷室と閉じ込められたりする甘い話でした
リクエストありがとうございました!
感想もらえるとやる気出ます!
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