「だーかーらー!今時は別にそうとは限らないの!」
「今とかそういう問題じゃねえよ!」
居酒屋に私と宮地…清志の声が響く。
個室なのでどうか許してほしい。
外であることをわかっていても、大声を出してまで譲れない問題を話し合っているのだ。
「本当清志ってわからずや!」
「お前もな!」
「おいお前ら、外まで聞こえてるぞ」
そう言って入ってきたのは高校の同級生、大坪だ。お手洗いから帰ってきたようだ。
今日は清志と二人で買い物をしていたら、帰りにたまたま大坪に会って、久しぶりに一緒にご飯でも食べようという話になったのだ。
「お邪魔じゃないか?」なんてからかうように聞いてきたけど、久しぶりに会った同級生が邪魔なんてことない。
それに、清志とはこれからずっと一緒にいるわけだし。
「えっ」
「個室だからって静かにな」
「ほら、お前だ」
「清志もでしょ!?」
「ははは。まあ、夫婦喧嘩は犬も食わないって言うけどな」
「「まだ夫婦じゃない!」」
大坪の言葉に、私と清志が声を揃えて言う。
プロポーズもされたし、両親に挨拶もしているけど、入籍も式もまだだ。
私たちの今の状態を表現するなら婚約中というのが適切だろう。
「で、なんでケンカしてたんだ?」
大坪は優しい声でそう言ってくる。
彼は昔から私たちがケンカするたびに仲裁役になっていたから、こういうことに慣れているのだろう。
「それがね!結婚式のことなんだけど!」
「ああ、さっき神前式にするって言ってたな」
先ほど、飲み始めたときに「式は神前式にする予定」と大坪には伝えておいた。
そこは私も清志も意見が対立することなくすんなりと決まった。
問題はそこからだ。
「そうなの!それでね、私は式で洋髪にしようかなって思ったるんだけど、清志が!」
「白無垢に洋髪とかありえねーだろ!」
そう、今の論点はそこだ。
神前式だから当然私は白無垢を着ることになるわけだけど、最近じゃ白無垢に洋髪も多いので私はそれで行きたいと思っている。
だけど、清志は「白無垢には絶対文金高島田だ」と言って譲らない。
「大坪はどう思う!?」
ここは民主的に多数決、そう思って大坪に聞くと、大坪は少し苦笑した。
「式は二人と家族の問題だからなあ」
大坪は日本酒を一口飲みながらそう言った。
…まあ、確かにその通りなんだけど!
「でもまあ、やっぱり式は女性の憧れなんだし、宮地が譲ってもいいんじゃないか?」
「大坪…!」
大坪は少し遠慮したような口調でそう言った。
さすが大坪…!わかってる!
「そもそもなんでお前は洋髪がいいんだよ」
清志はピザをつまみながら、少し不機嫌な顔でそう言った。
「だって洋髪のほうが可愛いじゃない?そういう清志はどうして文金高島田にこだわるの?」
あんまりにも反対されるものだから、私も少し不機嫌顔でそう聞いてみる。
自分の服に対しての好き嫌いならともかく、私の髪に対してまでそう言ってくるのは何か理由があるのだろうか。
「そりゃあ、そっちのが伝統的だし、それに」
「それに?」
「…いや、なんでもねえ」
清志はそこまで言いかけて、恥ずかしそうに顔を背けてしまった。
伝統的、という理由はわからなくもない。清志はそういうのうるさいタイプだし。
でも、もう一つ理由があるなら是非とも聞いておきたいところだ。
「何よ、気になるじゃない」
「別に大した理由じゃ」
「じゃあ洋髪決定ね」
「…だから!」
清志は軽く机を叩く。
頬を染めて、そんなに言いにくいことなのだろうか。
「…お前さ」
「うん」
「…絶対そっちのが似合うだろ」
「えっ」
思ってもみない言葉が飛び出してきて、私も固まってしまう。
似合う、とは…。
「…清志」
「…なんだよ」
「もう一声!」
ぎゅっと拳を握って、期待に満ちた顔で清志を見つめる。
もう一声言ってくれれば、私は恐らく文金高島田に落ちる。
「…そっちのが」
「うん」
「…似合うから、お前、綺麗だろ」
清志の言葉に、照れながら笑う。
そう言われたら、洋髪は諦めるしかない。
「ははは。やっぱりオレはお邪魔だったな」
「「!!」」
大坪の明るい笑い声とともに、私たちははっと我に返る。
隣にいたこの大男の存在を、私も清志もすっかり失念していた。
「お前ら学生のときから本当変わらないなあ」
「そ、そうかな…」
「ああ」
大坪があきれていないのが、唯一の救いだ。
きれいだ
15.05.26
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