「土方さん、休憩ですか?」

屯所の中で、お茶を飲んでる土方さんに話しかけた。

「ああ」
「お茶、おかわりいります?」
「悪ぃな」

空になった湯呑みに緑茶を足す。湯呑みの横には、甘そうなお茶菓子が二つ。

「それ、もらいものですか?」
「よくわかったな」
「だって土方さん、甘いものお嫌いでしょう」

土方さんの嫌いな甘いお菓子。本人が買うわけないんだから、あの人からもらったものだろう。

「甘いものが嫌いなこと、言ってないんですか?」
「言ったんだけどな…。あいつがこういうの好きだから」

土方さんの恋人は、甘いものが大好きって聞いたことがある。遠目でしか見たことないけど、とても綺麗な人。綺麗で、優しい人だって聞いた。

「”絶対おいしいから食べて”だとよ」
「確かにおいしそうですね」
「お前も甘いの好きなのか?」
「はい」
「うわ、お前までこんなのよこしてくんなよ」

土方さんの嫌いなものを、あげるわけないじゃない。

「…」
「どうですか?お味は」
「…どこがうまいのかわかんねぇな」

一口食べて、土方さんはそう言った。私があなたの恋人だったら、嫌いなものなんて絶対あげたりしないのに。

「これ、いるか?」

土方さんは封を開けてないほうのお菓子を私に差し出した。

「遠慮しておきます」
「甘いもの好きじゃねぇの?」
「今は、なんとなく気分じゃないんです」

だってそれは、あの人が土方さんに食べてほしいって思ってあげたものなんですから、私が食べるわけにはいきません。

「あとでもいいから、ちゃんと食べなきゃダメですよ」
「…これをもう一個…」

土方さんは困った顔をしながらお菓子を見つめる。まだそれは一口しか食べてなくて。だけどきっと、それはあの人がくれたものだから土方さんは食べたんだ。私があげたって、食べてくれないのに。

「もう行かれるんですか?」
「ああ」

土方さんは立ち上がって、横に置いてあった刀を手に取る。

「それ、食べかけですよ」
「お前にやる」
「え?」
「これ以上食えねぇけど捨てるわけにはいかないだろ」

土方さんは私の手の上にそれを乗せた。

「じゃあな、

私の名前を呼ぶ声が愛しい。だけど、きっとあの人にはもっと甘くて優しい声で名前を呼ぶんだ。その腕で抱きしめて、その唇でキスをして。土方さんの心は、いつもあの人のところへ向かっていて、あの人は、私が欲しいものを全部持ってる。食べかけのお茶菓子を、どうすることも出来ずに手の上で弄んだ。捨ててしまいたい衝動と、いつまでも大切に取っておきたい気持ちと半々で、一気に口の中にほおりこんだ。

「…甘い…」

涙が頬を伝い、それを自分で拭う。

(土方さんは、あの人が泣いたときは抱きしめてあげてるんだろうか)










私のことも、抱きしめて、愛してください










その腕で抱きしめて、その唇で愛してると言って
































   06.01.12

   人魚姫のイメージ