「あなたが、ころしたんですか」

仕事の帰りに会った土方さんは血だらけだった。一瞬土方さんが大怪我をしたのかと思ったけど、彼は微動だにしないのですぐに違うとわかった。土方さんの目の前には、血の海。その中には、人がひとり。土方さんは私の問いに答えなかった。でもわかる。土方さんが、殺したんだと。

「人殺し」

思うより先に出た言葉がそれだった。そんなこと言うつもりなかったのに。人殺し。確かに土方さんは人殺しで、それが仕事の一部だということも最初に会ったときからわかってた。私の知らないところでたくさん、人を斬ったり、斬られたり。それが土方さんの日常だと理解してたはずなのに、それでも私は涙が止まらなかった。まるで殴られたかのように頭ががんがん響いてる。今日見た土方さんの顔はとても冷酷な顔で、一週間前に私を家まで送ってくれた土方さんとは別人のようだった。あのとき、月明かりの中見た土方さんはとても優しく微笑んでいて、あの人が真選組だということを忘れさせるほどだった。私はもしかしたらどこかで信じていたのかもしれない。あんなふうに微笑む土方さんが、人なんて殺すわけない、と。
私が勝手に土方さんを信じて、絶望しただけ。ただそれだけの話。それだけなのに、こんなに涙が出るのは、土方さん、私は、あなたのことが好きだったみたいです。好きだった、今でも、きっと土方さんのことが好きなんだろう。だけど、もう土方さんとは前みたいに話せない。土方さんがどれだけ優しく笑っても、土方さんは人殺し。前みたいにしろなんて言われても、人を殺した人を前にそんなことできるわけがない。土方さんは人殺し、どう転んでも、土方さんは、人殺し。何の関係もない人を殺すとき、土方さんは何を思ってるんだろう。何も考えていないの?それとも辛く思っているの?もしかしたら嬉々とした表情で斬ってるのかもしれない。

土方さん、私はあなたが好きです。誰よりも、愛しています。だけど、どうしようもないくらいにあなたが怖い。









世界で一番愛したあなたへ
(さようならも言わずに別れを告げます)

07.09.23