「ちゃん、泣きたいときは泣いたほうがいいよ」 近藤さんが私の頭に手を置く。優しい 大きな手。 「別に、泣きたくなんてありません」 「でも…」 「帰ってきますよ」 土方さんは帰ってくる。誰かが副長は死んでしまったんだよって言ったけど、そんなのは嘘よ。だって誰もあの人が死んだところを見たわけじゃない。 「でもちゃん。あのトシが、二週間も帰ってきてないんだから…」 「私は待ってますよ」 待ってる。私はいつまでも待ってる。私が待ってなきゃ 誰があの人を迎えるの。私だけでも信じていなくちゃ。土方さんが帰ってくるときのために。 「ちゃん。なぁ、ちゃんだって本当はわかってるんだろ?」 「何をですか」 「トシが、もう帰ってこないこと」 「帰ってきますよ、絶対」 やめてよ 信じてなくちゃいけないのに 待ってなくちゃいけないのに。 「…だったらせめて中に入ろう。雨が降りそうだよ」 「あ…」 雨が一粒、手の上に落ちた。 そういえば、土方さんがいなくなった日も雨が降っていた。行ってくるって言ったのが最後。ねぇ 帰って来るでしょう? だって土方さんは”行ってくる”って言ったんだもの。それは帰ってくるってことでしょう? 「…ちゃん?」 「え…?」 気がつくと、私の頬に涙が流れてる。 「なぁ、ちゃん、やっぱり…」 「違いますよ」 「ちゃ…」 「雨が、たまたまここに落ちただけです」 土方さん 私は本当は知っているんです。あなたがもう帰ってこないことを。だから私は今泣いているんです。だけどこうやって強がるのは。信じていないと 悲しみに押しつぶされてしまいそうだから 空が泣いてる 06.06.07 |