あなたはあの人が好きで、私はあなたが好きで、どうあっても叶うことのない恋だけれど。 「土方さん」 「何だよ」 「泣きたいときは、思いっきり泣いたほうがいいって、近藤さん言ってましたよ」 「…泣かねぇよ」 土方さんは、意地っ張りだ泣いてくれたほうが、私だって楽になれるのに。人が一人亡くなるというのは悲しいことだ。私はあの人と話したことはないし、たった一度会っただけ。それでも、泣くほどではなくても、悲しい気分にはなる。昔から知っていた土方さんが悲しくないはずがない。 ましてや、土方さんは、 「…好きだったんでしょう?」 「…何の話だ」 「隠しても無駄ですよ」 土方さんのことは、何でもわかる。だって、ずっと見てきたから。少しの違いでもわかる。例えそれが、気づきたくなかったことだとしても。 「泣いたほうがいいですよ」 「だから泣かねぇって」 泣いてくれればいいのに。そしたら私だって、諦められるかもしれないのに。 「…何でお前が泣くんだよ」 「…だって…」 泣こうとしたわけではないのに、涙が止まらない。ぼろぼろ、涙は止め処なく溢れてくる。 「土方さん」 「……」 「好きです」 大好きだったのに、誰よりも土方さんを見てきたのに。あなたが好きなのはあの人で、私じゃない。もともと叶うとは思っていなかったけど、それでも、土方さんの心に私の入る隙間はないと思い知らされた。 「土方さん……」 土方さんの手が、私の手に触れる。人差し指だけ掴んだら、ぎゅっと手を握られた。もしかしたら土方さんも泣いてるのかもしれない。だけど、涙で視界が歪んでいるから見えない わからない 「好きです」 私はもうそれしか言えなくなって、土方さんは何も言わなくて。 あと五分、五分経ったら、あの人が亡くなって、ちょうど一日。だから、あと五分だけ、五分だけでいいんです。この手は、繋いだままでいてください。 あと五分だけ好きでいさせて |