「じゃあね、バイバイ」



テレビの中の、2時間の単発ドラマのヒロインは、恋人である男に向かって苦しそうな笑顔でそう言った。お互い好き合っているのに進む道が違うという理由で別れるらしい。少し間を持たせたところで少し切ないメロディのエンディングが流れる。お涙頂戴の感動的なシーンだ。私の後ろでベッドに寝転がってる男は感動なんてしないだろうが。


「かっこいいよね、こういう別れ方って」


私がそう言ってもトシは何も言わずに漫画を読んでいる。私が持ってきた漫画。トシが興味を持たないようなべたべたな恋愛系の少女漫画だ。
私は何となくこのドラマのような別れ方に憧れていた。「お互いの行く道が違ってる」なんて大人でなければできない別れ方で、一介の高校生である私たちはこんな別れ方は出来ないと思ってたから。出来ないと、思ってたのに。


「まだ帰らなくていいのか?」


ずっと黙ってたトシが口を開いた。トシは漫画を半分くらいまで読み進めていた。

明日早く起きなくてはいけない。私は明日朝一番の飛行機に乗って、それで、ここではないずっと遠くへ飛んで行く。
それはよくある親の転勤とかとは違って、私が自分で決めたこと。決めたこと。だから、後悔なんて何一つない。さっきのドラマのヒロインのように。
だから、トシといるのは今日で最後。遠距離恋愛。そんな言葉は私たちの中にはなかった。1日メールがない電話がないだけで喚く私が、3日会えなければ寂しさで押しつぶされそうになる私がそんなもの出来るはずがなかった。


「じゃあ、そろそろ帰るよ」


立ち上がって、自分の鞄を手に取る。携帯と、ハンカチを中に入れた。妙にひんやりしたドアノブに手を掛ける。


「おい、この漫画」

「あげる」

「あっそ」

「トシ」


トシのほうを向いて、精一杯笑った。



「じゃあね、バイバイ」





トシの表情は最後まで変わらなかった。じゃあね、バイバイ。精一杯笑ったつもりだけどちゃんと笑えていただろうか。
ドアを閉めたとき、自分の頬が濡れているのに気付いた。

ああ、ドラマみたいに綺麗にはいかないな。





















手を振ってさよなら

07.08.09

題名は…題名は…わかりやすい?どうなんでしょ この歌好きなんです