「あれ、こんなとこでどうしたの?」 「こそ」 卒業式が終わって、何となく一人になりたくて行った校舎裏。そこにはクラスメイトの土方くんがいた。 「なんかみんなで騒ぐの、疲れちゃって」 「俺も」 土方くんは校舎にもたれ掛かっていて、私はその隣に座った。 土方くんとは3年になって初めて同じクラスになったけど、私は土方くんのことが入学したときからずっと好きだった。 3年間、何度か告白しようかと思ったことはある。だけどそれをしなかったのは、土方くんの特別な存在になれないことを知っていたから。 「ね、学ランどうしたの?」 「ああ、いろんな奴がボタンくれって言ってくるから学ランごとやった」 「わ、もらった子ラッキーじゃん」 「そうか?」 「彼女にあげなくていいの?」 あ、言っちゃった。言ってみると案外素直に言えるもんだなぁ。今までは考えるだけで辛かったのに 「…何で知ってんだ」 「一部では有名だよ。土方くんには他の学校に彼女がいるって」 「…誰だ言ったの」 「噂の発信源は知らないけど」 「多分総悟あたりだな…」 土方くんに彼女がいる。その事実を知った日から、私は土方くんを見るだけにしようと思った。土方くんの彼女になれなくても、諦めることはできそうにない。だったら、土方くんの記憶の片隅に私が残ればいいな、と。土方くんが卒業してから、同じクラスにってやつがいたなぁ、と思い出してくれればいい。それだけでいい。 「そういえば、とこんなに喋ったの初めてだな」 「うん、そうだね」 「最後の最後に、か」 「ね、土方くん」 「ん?」 「卒業しても、クラスのみんなのこと覚えてると思う?」 「そりゃあな。個性強い奴らばっかだし」 「私のことも?」 「卒業式にたくさん話した奴ってことで覚えててやるよ」 「あはは、ありがとう」 土方くんはポケットから煙草を取り出して、火をつけた。 「あ、校則違反」 「もう卒業なんだからどうでもいいだろ」 「そっか、そうだね」 煙草から煙が舞い上がる。綺麗だなぁ。そしてそれ以上に土方くんは綺麗だ。 「一本やろうか」 「え、いいよ。吸えないもん」 「そうか」 煙草を吸い終えると、土方くんは立ち上がった。 「じゃ、俺もう行くから」 「うん、バイバイ」 「じゃあな」 本当にさよならなんだなぁと思うと、胸の奥が痛くなった。でもこれでいいんだ。だって土方くんは卒業しても私を覚えててくれるって、私はそれだけで十分なんだから。だから涙を流す必要なんてない。私が今泣いているのは、みんなと別れるのが寂しいだけ、それだけ。 本当は、土方くんの彼女になりかった、なんてそんなことは思ってない。思ってないよ。 パステル 07.01.31 |