3月、卒業式 最後の最後に君を知る 教室の中ではたくさんの笑い声の中に少し涙声が聞こえる。そういう私の目はからっからなんだけど、まぁそんなもんよね。 友達と離れるのは確かに寂しい。でも泣くほど寂しいわけではない。会おうと思えばすぐ会えるんだし。 「ね、一緒に写真撮ろうよ〜」 「あ、うん」 クラスで一番仲のいい子に言われて、席を立つ。誰か撮ってくれる人はいないかと周りを見渡すけど、みんなそれぞれのグループで盛り上がっていて話しかけづらい。 「あ」 そんな中、一人ボーっと席に座っているだけの人物に話しかける。同じクラスの、土方くん。 「ね、土方くん」 「何だ?」 答えるのも面倒だと言わんばかりの顔。うーん、やっぱまずったかな。 土方くんとは3年で初めて同じクラスになったけど、席が近くなったこともないし、結局最後まで話さずに終わってしまったので、ちゃんと話すのはこれが初めて。 「あの、写真撮って欲しいんだけど…」 「ああ、別に構わねぇよ」 「本当?これ、お願いね」 友達のデジカメと、用意しておいた私のインスタントカメラを渡す。土方くんは「撮るぞ」とだけ言ってシャッターを押した。 「ほら」 撮り終わったカメラを返されて、ありがとう、と言ったとき、一つのアイディアが思い浮かんだ。 「ね、土方くんも一緒に撮ろうよ」 「いや、別にいい」 「一年間一緒の教室で勉強した仲じゃん!撮ろうよ」 「いいって」 「遠慮しないで!」 「してねぇっつの!」 私は無理矢理土方くんの隣に行って、友達にシャッターを押してもらう。土方くんは心底嫌そうな顔をしてたけど、そんなの気にしない。 「さぁ、土方くんのカメラも出して!」 「いや、俺持ってきてねぇから」 「え、卒業式なのに!?」 「撮るつもりねぇし」 「しょうがないなぁ。私の写真焼き増ししてあげるよ」 「いらねぇよ」 「だから遠慮しなくていいって言ってるじゃん」 「してねぇ」 「現像したら渡すからさ。あ、そうだ、メアド教えてよ」 「お前人の話全然聞かねぇんだな…」 土方くんは諦めたように携帯を出して、アドレスを教えてくれた。自分の携帯に登録し終えて、じっと土方くんのアドレスを見る。土方十四郎、という名前が私の電話帳に入ってるなんて、変な感じ。携帯を返すと、土方くんは鞄を持って席を立った。 「あれ、もう帰っちゃうの?」 「ああ。どうもこういう雰囲気好きじゃねぇから」 「そっか。じゃあね」 「おう」 「あ、現像したらメールするから!」 そう言うと土方くんはぷっと吹き出した。 「ちょ、何で笑うの?」 「いや、って思ってたより面白ぇなと思って」 一年間一緒でもわかんねぇことってあるんだな、土方くんはそう言って未だ騒がしい教室を後にした。その背中を見送りながら、私は少し胸が高鳴るのを感じていた。一年間一緒だったのに、最後の日に恋するなんて私はなんてバカなのかな。 とりあえず、写真を現像したらすぐにでも会ってもらおう。 07.03.10 最後の最後に感じたときめき! 土方さんがカメラを構える姿を想像すると、なんか…という気分になったのは秘密です。 |